【千夜一夜物語】(65) 乙女「心の傑作」鳥の女代官の物語(第926夜 – 第937夜)

前回、”滑稽頓智の達人のさまざまな奇行と戦術”からの続きです。

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ある日、教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシードが、大臣ジャアファル・アル・バルマキー、御佩刀持ちマスルール、歌手のモースルのイスハーク・アル・ナディム、ジャアファルの兄アル・ファズル、法学者ユーヌースと平民に変装してバグダード郊外の街道を歩いていると、イスハークが良く知っている奴隷商人の長老と出会った。
商人はイスハークに挨拶し、音楽の才能のある美しい女奴隷が入ったので、見に来て欲しいと言ったので、商人の館に行くと、「心の傑作」(トーファ・アル・クールーブ)という美しい女奴隷がいて、見事に琵琶を弾き、歌ったので、イスハークは3万ディナールで買取り、自分の館で音楽を教え、教王に献上することにした。

何日かして、「心の傑作」が一人で歌うのを聞いたイスハークは、「心の傑作」の歌が自分より優れていることを認め、恥じ入り、「心の傑作」に最高の服を着せて教王に献上した。
教王の御前で「心の傑作」がベールを取ると、美しい顔に教王は感動したが、琵琶を弾くと歌声に無上に感動した。
教王はイスハークに褒美として10万ディナールと誉れの服10着を与え、その日以降、毎夜「心の傑作」と夜を共にした。

ある日、教王が狩に出て留守の時、教王の正后ゾバイダが「心の傑作」の部屋に来て、教王に月のうち一晩はゾバイダと過ごすようにと言うように「心の傑作」に頼んだ。
その晩も「心の傑作」のところに教王が来たが、服を脱いだときに「心の傑作」はゾバイダの所へ行くようにと教王に言ったので、事が済んだ後、教王はゾバイダの寝所に行った。

一人部屋に残った「心の傑作」が琵琶を弾いていると、どこからともなく老人が現れ踊りだしたが、それは老人の姿をした魔王イブリースであった。
イブリースは「心の傑作」に、魔神(ジン)の国に来て琵琶を弾くように頼み、「心の傑作」は応諾したので、イブリースは「心の傑作」を連れて便所の穴から魔神の国に行き、そこから空を飛んで宮殿に行った。

宮殿では大宴会が行われており、美しい魔神の女王カマーリヤ姫と3人の妹ガムラ、シャラーラ、ワヒーマを始め多くの魔神が人間の形に化けて待っていた。
しかしアル・シスバーンと御佩刀持ちマイムーンは、顔の中央に縦に裂けた一つ目と、牙の生えた口という魔神本来の姿をしていた。
「心の傑作」が一曲歌うと、魔神たちは有頂天になり、恐い顔をした2人の魔神も喜んで踊りだした。
「心の傑作」は続けて、「微風の歌」「薔薇の歌」「ジャスミンの歌」「水仙の歌」「スミレの歌」「睡蓮の歌」「ニオイアラセイトウの歌」「メボキ草の歌」「カミツレの歌」「ラベンダーの歌」「アネモネの歌」「燕の歌」「梟の歌」「鷹の歌」「白鳥の歌」「蜜蜂の歌」「蝶の歌」「鴉の歌」「戴勝の歌」を歌った。
魔神たちは大いに喜んだ。

魔王イブリースは、歌手イスハークにも音楽を教えたことがあると言って、「心の傑作」に新しい琵琶の弾き方を教えたが、それは今までにない美しい奏法であった。
「心の傑作」は一度で新しい弾き方を覚えると、魔王イブリースは「心の傑作」に、どのような鳥よりも美しく歌う歌手の称号「鳥の女代官」を贈り、紙に書いて署名した。
さらに大量の宝物を用意し、魔神たちに運ばせて、「心の傑作」をバクダードの宮殿まで送り返した。

バグダードでは教王が「心の傑作」がいなくなったことを心配していたが、帰ってきたことを知ると大いに喜び、皆幸せに暮らした。

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次回は、バイバルス王と警察隊長たちの物語です。

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