【千夜一夜物語】(6) 美しいアニス・アル・ジャリスとアリ・ヌールの物語(第32夜 – 第36夜)

前回、”せむし男および仕立屋とキリスト教徒の仲買人と御用係とユダヤ人の医者との物語”からの続きです。

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バスラの帝王ムハンマド・ベン・スライマーン・エル・ゼイニに二人の大臣がおり、ひとりはエル・ファドル・ベン・カカーンといって高潔で人々に慕われ、もうひとりはエル・モヒン・ベン・サーウィといい、こちらは悪人で忌み嫌われていた。
あるとき王は大臣ファドレディンに、一万ディナールをもって美しい女奴隷を贖うように言いつけ、ファドレディンは手をつくしてぴったりな美女アニス・アル・ジャリスを奴隷として手に入れる。
しかしこの大臣にはアリ・ヌールという美男の息子がおり、彼は父がいない間にアニス・アル・ジャリスの処女を奪ってしまった。

母親が大臣にとりなして、アニス・アル・ジャリスとアリ・ヌールを結婚させ、王には内緒にすることにする。
大臣ベン・サーウィはこれを知ったが、ファドレディンの人気を思って口をつぐんでいた。

やがて大臣ファドレディンは病にかかって亡くなるが、アリ・ヌールは十人の友人たちとひどい浪費をはじめる。
家族の諌めも聞かずに毎日宴会を開き、惜しみなく施しをしていると、そのうちアリ・ヌールの財産はつきてしまう。
金とともに友人たちもいなくなり、家財の切り売りで食いつないだが、やがて彼の所有物はアニス・アル・ジャリスひとりだけとなってしまった。

アニス・アル・ジャリスの勧めによって、アリ・ヌールは彼女を市場で売り出すが、そこに現れた大臣ベン・サーウィは、ひどい安値で手に入れようとする。
しかも仲買人によれば、この大臣は代金踏み倒しの常習犯であるという。
アリ・ヌールは一芝居うって彼女をとりもどし、さらに大臣ベン・サーウィをさんざんに殴りつけた。
すると大臣は先の一万ディナールの話もまじえてあることないこと王に言上し、王はアリ・ヌールとアニス・アル・ジャリスの捕縛を命じる。
アリ・ヌールらはバクダードに向けて逃走した。
教主アル・ラシードの庭園「歓楽御苑」に入り込んだふたりは、番人の老人イブラーヒームに保護され、彼ら三人で酒宴となる。

御苑に灯火がともっていることに気がついた教主は、誰が何のために勝手に使っているのか確かめようと、こっそり駆けつける。
イブラーヒームといっしょに若く美しい異国の男女がおり、さらに娘の歌が絶品であることを知ると、教主は漁師にばけて中に入り、みやげの魚料理とひきかえにもう一度娘の歌を所望した。
するとアリ・ヌールはアニス・アル・ジャリスを彼に献上するといい、自分の身の上を詩と散文で物語る。

教主は、ムハンマド王とは旧知であると言って、アリ・ヌールに王充ての手紙をもたせた。
それは王座をアリ・ヌールに譲るように書かれた命令書だった。
アリ・ヌールが旅立つと教主は身分をあかし、アニス・アル・ジャリスを御殿に連れ帰る。

アリ・ヌールはムハンマド王に手紙を見せるが、大臣ベン・サーウィは偽物であると言い張って彼を投獄した。
さらに教主からアリ・ヌール宛てに贈り物が送られてくると、急ぎ処刑をしようとする。
しかしそこに、アニス・アル・ジャリスに促されて遣わされた大臣ジャアファルの軍勢が到着。
ムハンマド王と大臣ベン・サーウィは捕らえられ、アリ・ヌールとともにバクダードに護送された。
教主は大臣ベン・サーウィの首をはね、アニス・アル・ジャリスをアリ・ヌールに返し、ムハンマド王はもとのままとした。
2人は教王の庇護のもと、幸せに暮らした。

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次回は、ガネム・ベン・アイユーブとその妹フェトナーの物語です。

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