【千夜一夜物語】(1) 商人と鬼神(イフリート)との物語(第1夜 – 第2夜)

前回、”【千夜一夜物語】(0) はじまりのはじまり。”からの続きです。

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昔、あらゆる国々にわたって手広く交易をしている商人がおりました。
ある暑い日、商用の途中、彼は一本の木の下に腰をおろし、食料袋から食べ物となつめやしの実をいくつか取り出しました。
なつめやしを食べ終えると、彼はその種を拾い集めて、それを勢いよく遠くに投げ捨てました。
すると、突然、彼の前に、丈の高い鬼神が現れ、剣を振りかざしながら近づいて来て、「お前を殺してやる。わしは、子供を抱えて運び、そこの空を飛んでいたのだ。そこにお前の投げたなつめやしの種が息子に当たって、それが最後になって、即座に死んでしまったのだ。」と叫びました。
商人は助かる術がないことを悟り。鬼神に両の手のひらをさし出して言いました、
「私には、たくさんの富があり、子供も妻もある身です。ですから、死後の憂いを残さぬよう、返すべき品々を返し、遺言をして、しかる後に必ずあなたのそばに戻って参ります。
その上で、私を好きなようにしてください。アッラーが私の言葉の保証人でございます。」
鬼神は商人を信用して出立させました。

商人は自国に帰り、しかるべき責務をすべて果たし、その後に妻と子供に自分の身に起こったことをすべて話しました。
すると、皆泣き始めました。
それから、遺言をして、その年の暮れまで家族と一緒に暮らしました。
こうした後で、いよいよ出発の決心をし、家族や親戚、近所の人たちにいとまごいをして、いやいやながらも出発いたしました。
商人が件の場所に着いたのは正月の元旦でした。
そこで、商人が腰をおろして嘆いていると、「羚羊(カモシカ)をつれた老人」が通りがかり、商人に挨拶をして、「魔人どもの出没するこんな場所に、なぜとどまっていなさるのか。」と訊ねました。
そこで、商人は鬼神との間に起こった経緯を話し、ここにいる訳を話しました。
すると、その老人は言いました。
「あなたの信義は、まことに見上げた信義じゃ。また、実に不思議な話じゃ。
 わしは鬼神とあなたとの間にどんなことが起こるか見届けぬうちは、あなたのおそばを離れますまい。」
こうして、その老人がずっとそこに一緒にいると、そこに「2匹の黒の兎猟犬をつれた老人」が、二人のところに進んで来ました。
その老人は、先の老人と同じことを訊ね、二人は一部始終を語りました。
ところが、その老人が座って間もなく、「椋鳥色の牝騾馬をつれた老人」が彼らのほうにやって来ました。
そこで、彼らは一部始終を話しました。

そうこうしていると、一陣の砂ほこりを巻き上げた旋風が近づいて来ました。
いよいよ近づいて、砂ほこりは消え、その中から例の魔神が鋭く研ぎ澄ました剣を手に持ち、双の眼から火花を散らして現れました。
そして、彼らのところにやって来て、真中にいる商人を引っ捉えて、「きさまが俺の子を、俺の命の息吹を、俺の心の焔を殺したように、俺がきさまを殺してやる。」と商人に言いました。
すると、商人は涙を流して嘆き始めました。
三人の老人もまた激しく泣き、涙に咽び始めました。

そこで、第一の老人が、思い切って魔神の手に接吻しながら言いました。
「おお、魔神の中の魔神さま、もし、わしがこのかもしかとわしとの物語をお話して、それに感じなされたら、その褒美にどうかこの商人の血の三分の一を免じて下さらぬか。」
魔神は「よろしい、尊ぶべき老人よ。俺がそれを不思議な話だと思ったら、この者の血の三分の一をおまえにつかわそう。」と言いました。
この後、第一の老人の不思議な話が繰り広げられますが、話しが終わると魔神は叫びました。
「この話はなかなか不思議だ。褒美に所望の三分の一の血をとらせよう。では、即刻、三分の二をこやつから取ってやろう。」

このとき、第二の老人が進み出て、申しました。
「おお、魔神の中の魔神さま、もし、わしがこのかもしかとわしとの物語をお話して、それに感じなされたら、その褒美にどうかこの商人の血の三分の一を免じて下さらぬか。」
魔神は「よろしい、尊ぶべき老人よ。俺がそれを不思議な話だと思ったら、この者の血の三分の一をおまえにつかわそう。」と言いました。
この後、第二の老人の不思議な話が繰り広げられますが、話しが終わると魔神はまた叫びました。
「この話はなかなか不思議だ。褒美に所望の三分の一の血をとらせよう。では、即刻、三分の一をこやつから取ってやろう。」

このとき、第三の老人が進み出て、申しました。
「おお、魔神の中の魔神さま、もし、わしがこのかもしかとわしとの物語をお話して、それに感じなされたら、その褒美にどうかこの商人の血の三分の一を免じて下さらぬか。」
魔神は「よろしい、尊ぶべき老人よ。俺がそれを不思議な話だと思ったら、この者の血の三分の一をおまえにつかわそう。」と言いました。
この後、第三の老人の不思議な話が繰り広げられますが、話しが終わると魔神はまた叫びました。
「この話はなかなか不思議だ。褒美に所望の三分の一の血をとらせよう。では、3人の話しに免じて商人を許すこととする。」

こうして三人の老人の話を聞いた魔神は満足し、商人は難を逃れることが出来ましたとさ。めでたしめでたし。

【第一の老人の話】

ある商人は、妻との間に子ができなかったので、妾を取ったところ、すぐに男の子が生まれた。
妻は嫉妬し、妾と男の子を魔法で牛に変えてしまった。
商人は妾の牛を知らずに殺してしまい、男の子の牛も殺しそうになるが、牛があまりに泣くので思いとどまった。
牛飼いの娘が、牛の正体を見破り、牛を男の子に戻し、商人の妻を魔法で羚羊(カモシカ)に変えた。
商人の息子は、牛飼いの娘と結婚した。

【第二の老人の話】

男3人の兄弟がいて、父親の遺産を相続した。
末の弟は地元で商売を続けたが、兄2人は隊商と旅に出て、一文無しになって返ってきた。
弟は兄に金を与え、地元でいっしょに商売をするが、すぐに兄2人は隊商と再び旅に出て、一文無しになって返ってきた。
再度、弟は兄に金を与え、地元でいっしょに商売をした。
3人は、今度はいっしょに旅に出ることにした。
旅の途中で、末の弟は、ぼろを着た女に出会い、結婚した。
3兄弟は大儲けして返ってくる。
しかし、兄2人は弟の妻に嫉妬し、弟と妻を殺そうとするが、弟の妻は実は女鬼神で、逆に兄2人を魔法で猟犬に変えてしまった。

【第三の老人の話】

ある商人が旅から帰ったところ、妻が黒人奴隷と浮気している現場を発見した。
妻がそれに気づき、魔法で商人を犬に変えてしまった。
犬になった商人は肉屋に拾われるが、その肉屋の娘が正体を見破り、人間の姿に戻してくれた。
商人は肉屋の娘から魔法を教わり、浮気した妻を魔法で牝騾馬に変えた。

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次回は、漁師と鬼神との物語です。

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