前回、”バイバルス王と警察隊長たちの物語”からの続きです。
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シャルキスターンのある国の王ザイン・エル・ムールークは三人の王子をもうけたが、末の王子ヌールジハーンの運勢を占うために呼んだ占い師たちの予言は「ヌールジハーン王子の運勢は大吉だが、成人した王子を一瞬でも目にすると王は失明する」というものだった。
王はヌールジハーン王子とその母を遠くの宮殿に遠ざけ、決して自らが目にすることなく育てるように命じた。
母親の申し分なく行き届いた養育により、ヌールジハーン王子は立派な騎士に成長する。
ある日、広大な森で鹿狩りをしていたヌールジハーン王子は、まったく偶然に同じ森で狩りをしていた王の視界に入ってしまい、王はたちどころに失明してしまう。
王の治療のために集まった学者たちから、失明を治すためにはシナの王国の都の庭園に生えている「海の薔薇」が必要だと聞いた三人の王子は「海の薔薇」を手に入れる探索の旅に出るが、上の二人の王子の探索行は不首尾に終わる。
末の王子のヌールジハーンは旅の途中の森で出会った森の守護者の魔神と友誼を結び、彼の助力を得て空の魔神たちが守護する庭園に忍び込むことに成功する。
庭園の泉水のほとりに生えている「海の薔薇」を手に入れた後、ふとした好奇心から泉水の傍らの家に立ち寄ってみたヌールジハーン王子は、寝台で眠っている乙女「百合の顔(かんばせ)」の美しさに一目で恋に落ちてしまう。
乙女の指輪を抜き取って自分のものと交換したヌールジハーン王子は、「海の薔薇」を手に父王の待つ故郷へと帰還する。
ヌールジハーン王子が王の眼前に「海の薔薇」を差し出したところ、王の失明はたちどころに回復し、喜びの限りに喜んだ王は1年間にわたって祝祭を執り行うように命じる。
探索に失敗した二人の王子はヌールジハーン王子を妬み、失明の快癒は「海の薔薇」によるものではないなどと讒訴したため、薔薇の花に失明を癒す力を授けたもうたアッラーの全能に対する不信の咎で追放されてしまう。
一方「百合の顔」は、目覚めてみると「海の薔薇」が抜き取られ、指に嵌めていた指輪が別人のものになっていることに驚愕し、不遜な侵入者を捕らえて「海の薔薇」を取り戻すために旅に出る。
長旅の末、国を挙げてのお祭り騒ぎのただ中にあるザイン・エル・ムールーク王の国に入った「百合の顔」は通りすがりの人に事情を聞き、ヌールジハーン王子がシナの国からもたらした「海の薔薇」によって王が失明から回復したお祝いであることを知る。
「百合の顔」は「海の薔薇」が植えられた庭園にたどり着き、窃盗犯を探すために物陰に隠れていたが、庭園にやってきたヌールジハーン王子を一目見るなり恋に落ちてしまう。
「百合の顔」はヌールジハーン王子に宛てて想いを綴った手紙を書き、二人は人目を忍んで愛し合うようになり、ついには結婚して末永く幸福に暮らした。
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次回は、蜂蜜入りの乱れ髪菓子と靴直しの禍をまきちらす女房との物語です。