This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(28) 江戸世話物『与話情浮名横櫛』

歌舞伎は世界に誇る、日本の伝統芸能です。
しかし、元々400年前に登場したときには、大衆を喜ばせるための一大エンターテイメントだったのです。
なんとなく難しそうなので、ということで敬遠されている方も多いのかもしれませんが、そもそもは庶民の娯楽だったもの。
一度観てみれば、華やかで心ときめく驚きと感動の世界が広がっているのです。
しかも歌舞伎は、単に400年もの間、ただただ伝統を受け継いできただけではありません。
時代に呼応して常に変化し、発展・進化してきているのです。

This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(4) 演目の分類と一覧について
前回は歌舞伎の演目をざっと整理してみましたので、ここからは具体的な演目の内容について触れてみましょう。
今回は、江戸世話物の中から『与話情浮名横櫛』です。

『与話情浮名横櫛』は、長唄の四代目芳村伊三郎が、木更津で若い頃に体験した実話をもとにしたもので、それが一立斎文車(乾坤坊良斎)などの講談となり、さらにそれを三代目瀬川如皐の脚本で舞台化し、九幕十八場から成る歌舞伎の演目のひとつとなっています。
通称『切られ与三』、『お富与三郎』、『源氏店』などといわれ、運命的な出会いをした与三郎とお富の変転を描いた世話物の名作のひとつに数えられています。

通常、2人が木更津の浜で出会う通称「見染」、3年後に変わり果てた姿で再会する通称「源氏店」の2場が上演されます。
「源氏店」の与三郎の「しがねえ恋が情けの仇」から始まるせりふは、名ぜりふとして有名です。

【三幕目、源氏店妾宅の場より与三郎の名科白】

与三郎:え、御新造(ごしんぞ)さんぇ、おかみさんぇ、お富さんぇ、いやさ、これ、お富、久しぶりだなぁ。
お 富:そういうお前は。
与三郎:与三郎だ。
お 富:えぇっ。
与三郎:お主ゃぁ、おれを見忘れたか。
お 富:えええ。
与三郎:しがねぇ恋の情けが仇
命の綱の切れたのを
どう取り留めてか 木更津から
めぐる月日も三年越し
江戸の親にやぁ勘当うけ
拠所なく鎌倉の
谷七郷は喰い詰めても
面に受けたる看板の
疵が勿怪の幸いに
切られ与三と異名を取り
押借り強請りも習おうより
慣れた時代の源氏店
その白化けか黒塀に
格子造りの囲いもの
死んだと思ったお富たぁ
お釈迦さまでも気がつくめぇ
よくまぁお主ゃぁ 達者でいたなぁ
安やいこれじゃぁ一分じゃぁ
帰られめぇじゃねぇか。

『切られ与三』の通称は、与三郎が受けた30箇所以上の切り傷からきています。
与三郎が出会った当時のお富は、木更津の親分の妾でした。
与三郎はお富と忍び会っていたことがばれ、見せしめのために全身を切られてしまいます。
このときの傷から、「切られ与三」というあだ名を付けられ、作品の通称となりました。
後に河竹黙阿弥が、この作品を元にしてお富が傷だらけとなる『處女翫浮名横櫛』[通称『切られお富』]を書いています。

『与話情浮名横櫛』

【木更津海岸見染の場~出会い~】

江戸の小間物問屋伊豆屋の若旦那与三郎は気立てのよい実にイイ男。養子だったが、実子の弟与五郎に跡目を譲るべきという気持ちになり、わざと放蕩三昧を重ねて勘当され、木更津の知り合いに預けられていた。一方、この町を牛耳るやくざの親分赤間源左衛門は、江戸で評判の芸者お富を落籍して妾にしていた。ぶらぶらと浜辺へ出た与三郎は、大勢の子分や女中をお供に浜遊びをするお富とすれ違って一目ぼれ。お富も片田舎では見かけない江戸前の与三郎に惹かれる。

【赤間別荘の場~密会~】

ある日、赤間源左衛門が鎌倉へおもむくことになる。源左衛門が旅立ったのをさいわい、お富は赤間の別荘へ与三郎を呼び寄せた。つかの間逢瀬を楽しんだ二人だが、子分に気づかれてしまい、知らせで戻ってきた源左衛門に見つかる。お富は逃げ出して海に飛び込んだが、与三郎はつかまえられる。怒った源左衛門は与三郎をなぶり斬りにし、顔や体に34か所もの傷をつけて放り出す。波間をただよい瀕死のお富は、偶然通った船に助けられる。

【源氏店の場~再会~】

三年後、舞台は東京湾の対岸鎌倉に移る。九死に一生を得たお富は、質店和泉屋の番頭多左衛門に囲われ、源氏店の妾宅で何不自由ない暮らしをしていた。下女を連れたお富が湯屋からの帰りがけ、裏口で雨宿りをする番頭藤八を見かけて家へあげると、藤八は化粧を直すお富にずうずうしく近寄り、自分もおしろいを付けてもらいたいという。妾暮らしの気ままさで、お富は藤八におしろいをつけてやって退屈しのぎ。

【蝙蝠の安五郎~相棒~】

傷だらけの身体にされた与三郎も鎌倉へ流れついて、頬に蝙蝠の入れ墨がある蝙蝠安(こうもりやす)の相棒になり、傷跡を元手に強請(ゆす)りなどして日を送る身の上になっていた。二人は傷の養生代をたかるつもりで、源氏店のお富のもとへやってくる。最初は突っぱねていたお富だが、押し問答が面倒になると、「立派な亭主のある体だ」と啖呵を切って、一分(一両の四分の一にあたる銀貨)を投げてやる。蝙蝠安が有難く受け取って引き下がろうとすると、それまで黙っていた与三郎が押し止めた。

【お釈迦様でも~哀しき名ぜりふ~】

与三郎は、お富に向き直って近づきながら、「おかみさんへ、お富さんへ、いやさお富、久しぶりだなあ」と声をかける。「そういうお前は」と問いかけるお富に、「与三郎だ」と名乗ると、手拭いで隠していた顔を見せ、着物の袖をまくって総身に受けた傷を見せる。ハッと胸に手を当てるお富。お富がぬくぬく暮らしていることをなじり、「死んだと思ったお富が生きていたとは、お釈迦様でも気が付くめえ」と悪態をつき、この家のものはすべてお富の亭主である俺のものだと息巻く。

【あるじの多左衛門登場~実は兄~】

そこへお富を囲う和泉屋の番頭多左衛門が帰ってきた。蝙蝠安は親の代から和泉屋には世話になっている身だったので、その顔を見て縮みあがる。多左衛門は落着き払った態度で、与三郎は誰かと尋ねた。お富はとっさに「兄さんだ」と言いつくろう。与三郎に向かって多左衛門は、「お富を囲っているが男女の関係はない」といい、適当な商売でも始めるようにと、与三郎に相当な金を受け取らせるのだった。

【臍の緒書(ほぞのおがき)~解ける謎~】

金をもらった蝙蝠安と与三郎が引き上げたあと、店から迎えがきたので、多左衛門はお富に自分の守袋を渡して店へ戻っていく。お富が守り袋を開くと、なかにあった臍の緒書から、多左衛門がお富の実の兄であることがわかった。そっと戻ってきた与三郎に、お富は多左衛門が実の兄であったと知らせ、二人は多左衛門に感謝するのだった。

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