今夜(10月8日)は、2011年12月10日以来ほぼ3年ぶりの皆既月食です。
美しい満月が次第に陰り、真っ暗になった後に次第に明るさを取り戻す様は、宵の楽しみとしては風流この上ない景色です。
国立天文台の観察キャンペーンも行われていますが、今回は月が昇り始めた頃から既に月食が始まっているので、今宵は天を仰ぐというより若干見上げるぐらいの姿勢で楽しむことができそうです。
・部分食の始まり/18時14.5分
・皆既食の始まり/19時24.6分
・食の最大/19時54.6分
・皆既食の終わり/20時24.5分
・部分食の終わり/21時34.7分
皆既月食(total eclipse)は陰陽道の観点から言えば穢れの光と言うことで、昔は月の光にあたらぬよう籠っていたりしたとのこと。
昔は夜道も相当に暗かったでしょうし、満月の明かりで安心して歩いていてもいきなり月食で真っ暗になってしまうと怪我や事故に合いやすくなるので、外出を控える意味も込めて、このような言い伝えになったのではないかと思われます。
日食は月食は日蝕月蝕とも書くように、じわじわと蝕まれて悪くなると捉えられていたんですね。
total eclipseは、映画トワイライトの第3弾のタイトルにもなりましたね。
(あっ、あれはバンパイアの話しか、これもいずれ纏めてみたいと思います)
月食が悪いものに飲みこまれる凶事とされる説は、世界各地にあります。。
・魔神の仕業(北欧)
・魔狼ハティが月をのむ(北欧)
・ロバが水に映った月を飲んだため(ギリシャ)
・太陽と月の交点はドラゴンの頭と尾(ギリシャ)
・竜が月を食べる(タイ)
・太陽の真ん中の穴に月がたまたま向きあって光を奪われる(中国)
・悪霊が左手で月、右手で太陽隠す(中国)
・火の犬が日月を噛む(韓国)
・天上の青いジャガーが太陽や月を貪り食う(南米)
・月が病んでいる(ペルー)
・巨大な猫が地球と月の間に片足をおく(アフリカ)
月が病んでいるという発想は、古来の日本も同じですね。
そんな中、古代インドの叙事詩・プラーナ神話では、不死の霊薬アムリタを飲んだためにヒンドゥー教の神・ヴィシュヌの怒りを買い、首だけにされた4本腕の魔族アスラの”ラーフ”が、告口した太陽と月を飲み込んで日食・月食を起こしたという伝説があります。
アスラは、”阿修羅※”として仏教に習合されていますね。
※)中国においては”阿”の文字は名の接頭辞(日本でいう”~ちゃん”)になるため”修羅”と呼ばれてます。
日本で修羅というと争うことを表していますので、ここでははやり”阿修羅”が一般的ですよね、修羅ちゃんってところでしょうか。
そこでこのラーフですが、黄幡神(おうはんじん)と呼ばれており日本ではスサノオと習合しています。
ラーフは元々蛇神なのですが、これが八岐大蛇退治を行い、また日食を引き起こした神であるスサノオ(須佐乃袁尊:スサノオノミコト)と習合しているのが興味深いですね。
そもそも古代の日本は、竜ではなく蛇を信仰していました。(竜と蛇を同一視していたともいわれています)
そして古くは、蛇のことを”カカ”と呼んでます。
鏡は、”カカ身”= 蛇身。
蛇は、古い皮を脱ぎ捨てて新しく生まれかわる”再生、復活”の象徴として祀られていたのです。
神社でご神体として鏡が祀られていますが、これは”再生、復活”の象徴であることが伺えます。
黄幡神は、九曜※の1つで集落の境や村の中心、村内と村外の境界や道の辻、三叉路などに祀られている村の守り神としての神様です。
※)九曜はインド天文学やインド占星術が扱う9つの天体とそれらを神格化した神で、繁栄や収穫、健康に大きな影響を与えるとされています。
東アジアでは宿曜道や陰陽道などの星による占いで使われています。
ちなみに、陰陽道の九星とは抽象概念が大きく異なるので、別物だと捉えておいた方がよいようです。
また黄幡神は、吉凶の方位を司る八将神※の一柱で、万物の墓の方と、兵乱の神ともいわれているそうです。
※)八将神は陰陽道の神で方位の吉凶を司る八神の総称です。
神仏習合によって神として分類され、仏教での本地は摩利支天王※とされています。
※)摩利支天王は陽炎を神格化したもので、仏教の守護神である天部の一柱で日天の眷属になります。
摩利支天の尊格は、古代インドのヴェーダ神話に登場する暁の女神ウシャスと言われています。
叙事詩・プラーナ神話のラーフがぐるっと回って、ヴェーダ神話に戻ってきました。
そもそもインド神話と言われているものは、特にバラモン教、ヒンドゥー教に伝わるものを指すのですが、大きく3つに大別されています。
・ヴェーダ神話がバラモン教に属し、
・叙事詩・プラーナ神話がヒンドゥー教に属し、
・ブラーフマナ・ウパニシャット神話がその両者を繋ぐもの
となっている訳です。
習合の結果、こうした差異を見つけるものも面白いものです。
もう少し見てみると、魔族アスラは天空神・司法神”ヴァルナ”の眷属を指すようです。
※)ヴァルナ神、神話でいえば天御中主神 (あめのみなかぬしのかみ) に習合しています。
ヴァルナはやがて死者を裁くヤマ神に司法神としての地位を奪われ、やがては水の神、海上の神の役割を与えられます。
そして仏教では、水の神は十二天※の一つで西方を守護する”水天”です。
※)十二天は、仏教の護法善神である天部の諸尊12種の総称です。
日本各地の”水天宮”はこの水天(ヴァルナ)を祀ったものということになります。
水天宮といえば竜、そして竜といえば蛇です。
ヴァルナ→アスラ→ラーフ、がきれいに蛇で繋がりましたね。
このあたりの習合による繋がりは、もう少ししたら一覧でわかりやすく整理してみたいと思います。
随分、余談が過ぎました。
ということで、今宵の皆既月食もあとは雲行き次第ですね。
19時55分頃の満月の姿に注目して参りましょう!
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