東洋史観 五行と五徳の処世術について

これまで陰陽五行説などの整理の中でたびたび出現してくる”五”という数。

陰陽五行とは?
陰陽五行 八方、十干十二支を整理すると。
陰陽五行 色彩に関わる視点

仏教で五行といえば、菩薩がする5つの修行を指し、涅槃経では聖行・梵行・天行・嬰児行・病行、大乗起信では布施・持戒・忍辱・精進・止観となります。
またイスラム教で五行といえば、信仰告白・礼拝・喜捨・断食・巡礼という5つの信仰行為を指しますね。
中国思想では木火土金水の5つの元素を指しますが、五行説では人を中心とした東西南北の空間認識から成立したものと考えられています。
こういった具合に現れる”五”ですが、人の五体、五臓、五本の指を初めとして、以下のように数多一致することから、古くから自然界において本質的な意味を持つと認識されてきたようです。

五行
五色
五方 西
五時 土用
節句 人日 上巳 端午 七夕 重陽
五星 歳星(木星 熒惑(火星 填星(土星 太白(金星 辰星(水星
五曜 木曜日 火曜日 土曜日 金曜日 水曜日
五情
五志 喜・笑 思・慮(考) 悲・憂 恐・驚
五腑 小腸三焦 大腸 膀胱
五指 薬指 中指 人差指 親指 小指
五官
五塵 色(視覚 触(触覚 味(味覚 香(嗅覚 声(聴覚
五味 鹹(塩辛さ)
五味走る所 営・智
五禁 鹹(塩辛さ)
五主 筋・爪 血脈 肌肉・唇 皮毛 骨髄・髪
五事
五虫 鱗(爬虫類 羽( 裸(ヒト 毛( 介(カメ甲殻類貝類
五獣 青竜 朱雀 黄麟黄竜 白虎 玄武
五竜 青竜 赤竜 黄竜 白竜 黒竜
五麟 聳孤(しょうこ) 炎駒(えんく) 麒麟(きりん) 索冥(さくめい) 角端(かくたん)
五畜
五果
五穀 胡麻 大豆
五菜 藿(カク 豆の葉)
五常(五徳)
五経
五悪 熱・暑 湿 燥・寒 寒・燥
五変
五金 (青金) (赤金) (黄金) (白金) (黒金)
十干 甲・乙 丙・丁 戊・己 庚・辛 壬・癸
十二支 寅・卯 巳・午 辰・未・戌・丑 申・酉 亥・子
月(旧暦 1 – 3月 4 – 6月 (割当なし) 7 – 9月 10 – 12月

そんな”五”、今回は五徳についてです。
東洋史観では、人が世の中を生きていくための処世術として、集団の結束を乱さずに自らの本能・能力を発揮する方法として、仁徳、義徳、礼徳、智徳、信徳の5つの徳(=五徳)を精神と行動にわけて表していますので、それらを以下にまとめてみました。

【仁徳】
仁は”人”と”二”からなるので、人を愛する気持ち・慈しみの心を表していることから、人を思い遣る方法です。
”論語”の中でもさまざまな説明がなされていますし、孔子は仁を最高の徳目としていましたね。
行動の不変さと精神の和合が大切とされます。
守りの信念と行動規範に支えられた奉仕の精神という訳です。

【義徳】
自然界の真理であり不変の価値である道理を後世に伝えるための戦いであり、利欲に囚われず、すべきことをする方法です。
人の内面に据えられた良心の掟ともなり、その精神は自尊心によって支えられ、行動はそれを守るための戦いとなります。
”論語”の”義を見て為さざるは勇なきなり”は、まさに道義の上で果たさなければならないことを知っているのであれば、勇気を振り絞って行動を起こすことが肝要だと説いている訳です。

【礼徳】
仁を具体的な行動として表したもので、自分の想念や考えを相手に伝える方法です。
人間の上下関係で守るべきことを意味し、行動は自己主張を行っていても、精神は常に中庸であることが必要ということです。
そのため、礼節を重んじた行動をとるべきであるという訳です。

【智徳】
学問に励んで物事を習得し創造することを繰り返すことで進歩を図る方法です。
行動は伝統を大切とし、精神は改良改革を常に心がけることが肝要という訳です。

【信徳】
四徳である”言明を違えないこと、真実を告げること、約束を守ること、誠実であること”をバランスよく最大に発揮されたときに付帯的に備わるものです。
いわゆる信頼や信用を表し、奉仕的行動と準備・蓄積の精神が必要となります。

上記の五徳の説明は、”端論”とも言われ、5つの本能(仁・義・礼・智・信)を単独で表す場合の解釈です。人は、自分に与えられたエネルギーの中で最も多いものを燃焼させることが、生きがいや人生の発展、成長に繋がる大事な所作となるということを踏まえても、それは理解頂けるかと思います。
※)エネルギーの算出方法については、以下で整理した内容を参考にしてください。
算命術 具体的に占ってみましょう。
一方、5つの全ての本能をバランスよく燃焼させ、偏りがあるものは(自らのみならず)周りの環境や取り巻く人々のバランスをうまく取り込むことで、相乗効果を出すための解釈を”幹論”といいます。

東洋史観においては、
”人の下に位する者は、端論に従い処世術をすべし。
人の上に立ち(時として集団や国を)指導する者は幹論を以って旨とすべし”

と説いています。

よく理解しておいて頂きたいのは、占術などで割り出す自らのエネルギーや運勢といったものは、その人のみが平穏に人生を送るために従う行動指針でしかない(=”端論”)ということです。
本来は、こうした自らのエネルギーや運勢を認識した上で、如何にそれらをバランスよく活用し、不足するものは補完・補填しながら、如何に組織や集団の行動指針とするかが肝要(=”幹論”)だということです。

徳川幕府が260年もの長い間維持できたのも、この五徳を儒教的に解釈し、身分制度の中にうまく取り入れたからに外なりません。
仁:東方:農民・公民:土地や生業を守る
義:西方:武士:道理を守り幕府を補佐する
礼:南方:町人・商人:日常生活を維持し流通の役目を担う
智:北方:公家:行動ではなく知る権利を与えた
信:中央:徳川幕府:
武士に関しては、道理を守るためには命を張ることも辞さずという、葉隠から来る武士道精神に至ります。
※)武士道については、改めて別の機会に整理します。

世の中を生きていくための処世術と、集団の結束の中で自らの能力を如何に発揮していくか、熟考し行動に移していきたいですね。

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