【千夜一夜物語】(68) 蜂蜜入りの乱れ髪菓子と靴直しの禍をまきちらす女房との物語(第959夜 – 第971夜)

前回、”海の薔薇とシナの乙女の物語”からの続きです。

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カイロの靴直し職人マアルフの底意地の悪い女房ファティマーはいつも夫をののしっていたが、ある日、高価な蜂蜜入りの乱れ髪菓子(クナーファ)を買って来るようマアルフに命令した。
しかし、マアルフはその日まったく収入がなく、困っていると、親切な菓子屋が砂糖黍蜜の乱れ髪菓子をツケで売ってくれた。
しかしファティマーは蜂蜜ではないことをさんざんなじったため、さすがに逆上したマアルフがちょっと手を上げると、ファティマーは「夫に暴力を振るわれた」と騒ぎ立て、近所の人を呼び、夫の歯を折り、髭を毟った。
しかし、近所の人はファティマーの性悪さを知っているので、とりなして帰って行った。
しかし、翌朝ファティマーは夫の暴力を法官に訴え、ファティマーが偽証の罪に問われるのを恐れたマアルフが黙っていると、法官たちはマアルフが罪を認めたと思い、足の裏の棒打ち刑にした。
もう家に帰りたくなかった彼は、たまたま見かけた屋形船に乗り込み、船子としてあてもなく旅立った。

船は沈没し、マアルフはソハターン国ハイターンの町へ打ち上げられた。
マアルフを助けた裕福な商人は、昔カイロで隣に住んでいた香料商人の長老アフマードの息子で、コプト人と諍いをおこして出奔してしまった彼の親友アリであった。
アリはマアルフを大商人であると当国の市場に紹介し、その鷹揚な態度は国王の耳に届くまでになった。

王は、マアルフが豪商で、もうすぐ彼の大隊商が来ると信じ込み、大臣の反対を押し切ってマアルフを王女の夫とした。
だが当然ながら、隊商はいつまでたっても到着しなかった。
マアルフの大盤振る舞いにより国庫がカラになったとき、王は大臣の疑義もあって王女に事情を確かめさせたが、王女はマアルフを好きになっており、真実を聞き出した後も、解決の方法を思いつくまでマアルフを一時王宮から逃がし、王と大臣には「マアルフはベドウィンに襲われた隊商を救出に行った」と適当な嘘をついて時を稼いだ。

王宮から逃げ、ある村にたどり着いたマアルフは、貧しい農夫に出会った。
農夫はマアルフを歓待しようと言い、その準備のため出かけたが、心苦しく思ったマアルフは農作業を手伝おうと畑を耕すと、畑の真ん中に埋もれた地下室を見つけた。
そこには巨万の財宝と赤瑪瑙の指輪があり、指輪をこすってみると魔神「幸福の父」が現れた。
その土地は円柱のイラムの設計者アードの息子シャッダードの古い宝物蔵で、魔神はシャッダード王の奴隷であった。
マアルフは魔神に命じて財宝を運び出させ、魔法で大隊商とご馳走を出させた。
そこに農夫が帰って来た。
マアルフは農夫に感謝し、農夫が用意した食物のみを口にし、魔法で出したご馳走と多くの財宝を渡して、隊商と共に立ち去った。

こうしてマアルフは長い長い隊商を率いて王宮に凱旋し、財宝を国王と人々に分け与えた。
大臣はこの謎を解き明かそうと、マアルフを酒に酔わせ本当の話を全て聞き出した。
そして隙を見て指輪を奪うと、魔神を呼び出してマアルフと王を砂漠に放逐させ、王位と王女を我が物にしようとした。
王女は言い寄る大臣に、指輪の精が見ていると服が脱げないと言い、大臣に指輪をはずさせるとそれを奪い返し、魔神の力によって大臣を牢に入れ、王とマアルフを呼び戻させた。
大臣は串刺し刑に処され、以後指輪は王女が管理することになった。

しばらく安泰な日々が続いたが、ある夜、マアルフの寝室にファティマーが現れ、マアルフは恐怖のあまり気を失った。
王女は、これがかの悪妻であると知り、魔神によって庭の木に縛りつけ、ファティマーは性根を直すか死ぬかの運命となった。
それ以降、マアルフと王女は幸せな日々を送った。

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次回は、智恵と歴史の天窓です。

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