【千夜一夜物語】(51) ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語(第807夜 – 第814夜)

前回、”巧みな諧謔と愉しい頓智の集い”からの続きです。

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昔、ある国に、長男アリ、次男ハサン、三男フサインという3人の王子がいた。
3人の王子たちは美しい従姉妹のヌレンナハール姫に恋をし、最もすばらしい宝を持って来た者が結婚するということになり、旅に出た。
3人はある宿屋で、1年後宝を持って再会することを約束し、分かれた。

長男アリ王子は、インドの海に面したビスシャンガール王国に着き、美しい町並みと、珍しい品々を見ていると、3万ディナールで祈祷用の絨毯を売る商人がいた。
不思議に思い、聞くと、その絨毯は魔法の絨毯で、心に念じればどこにでも空を飛んで運んでくれるもので、たとえ門が閉まっていても門はひとりでに開くというものであった。
アリ王子は4万ディナールでそれを買った。

次男ハサン王子は、ペルシャのシーラーズの都に着き、その国の言葉でバジスターンという市場に行き、珍しい品々を見ていると、3万ディナールで象牙の筒を売る商人がいた。
不思議に思い、聞くと、その象牙の筒は魔法の望遠鏡で、心に念じればどんなに遠くの物でも見えるものであった。
試しにヌレンナハール姫を心に念じ覗くと、浴場でお化粧をする姫が見えた。
ハサン王子は4万ディナールでそれを買った。

三男フサイン王子は、サマルカンド・アル・アジャムに着き、バザールで珍しい品々を見ていると、3万ディナールでスイカほどの大きさの林檎を売る商人がいた。
不思議に思い、聞くと、その林檎は魔法の林檎で、その匂いを嗅げばどんな病気でも治るというものであった。
試しに今にも死にそうな盲目の中風の病人に匂いを嗅がせたところ、病人はたちまち直り、元気に走り去っていった。
フサイン王子は4万ディナールでそれを買った。

3人は約束の宿屋で再会し、互いの品物を見せ合ったが、次男のハサン王子が象牙の望遠鏡でヌレンナハール姫を見ると、姫は瀕死の病気で、周りの奴隷たちが嘆き悲しんでいる様子が見えた。
そこで、3人は長男アリ王子の魔法の絨毯に乗り空を飛んでヌレンナハール姫の病室まで行き、三男フサイン王子の林檎の匂いを嗅がせると、ヌレンナハール姫はたちまち元気になった。

3人の品物はどれも劣らずすばらしい品物で、どの1つが欠けてもヌレンナハール姫を助けることができなかったので、勝負は引き分けとなった。
そこで、決着を着けるため、矢を一番遠くまで飛ばすことができたものがヌレンナハール姫の夫になることにした。
まず長男アリ王子が矢を撃ち、次に次男ハサン王子が矢を撃つとアリ王子の矢より遠くに飛んだ。
三男フサイン王子が矢を撃つと、矢はどこまでも飛んで行き、見えなくなってしまった。
矢が見つからないので、勝負は次男ハサン王子の勝ちとなった。

ハサン王子とヌレンナハール姫の結婚式の日、長男アリ王子は悲しみのあまり王位継承権を放棄し、修道僧となり王宮を去った。
フサイン王子は、射った矢を探し、矢の飛んだ方向にどこまでも進んでいくと、切り立った岩山の麓に矢が落ちているのを見つけた。
よく見ると、岩山には切れ目が入っており、触ると扉のように開いた。
フサイン王子が入り暗闇の中を進んで行くと、広々とした草原に出て、そこには壮大な御殿があり、美しい女がフサイン王子に挨拶をして御殿の中に招き入れた。

女は実は魔神(ジン)で、魔法の絨毯も、魔法の望遠鏡も、魔法の林檎も、全てはこの女魔神の物であった。
女魔神はフサイン王子をずっと見ていたと言い、結婚を求めた。
フサイン王子はヌレンナハール姫を上回る美貌の女魔神を見て、結婚を承諾した。
フサイン王子は6か月間その女魔神の御殿で、幸せに過ごした。

6か月すると、フサイン王子は、王のことが気になり、王宮に帰りたいと女魔神に言った。
女魔神は場所を知られないように用心することと、すぐに帰ってくることを条件に、王宮に行くことに同意した。
フサイン王子は召使の魔神たちを連れて、豪勢な行列を組んで王宮に帰った。
王はフサイン王子の帰還を喜び、フサイン王子がどこにいたかを聞いたが、フサイン王子は答えなかった。
フサイン王子は毎月1回王宮に来ることを約束して女魔神の御殿に帰った。

次の月、フサイン王子が来たとき、大臣たちは行列の見事さから、フサイン王子の力が強大であり、謀反を起こすかも知れないと、王に進言した。
王は狡猾な老婆を呼び、王子の後をつけさせたが、王子が消えた岩の扉を、老婆はどうしても見つけることができなかった。

次の月、老婆は秘密の岩の扉の近くで病人のふりをして倒れていた。
そこに出て来たフサイン王子は、老婆を見つけ、治療するため老婆を連れて女魔神の御殿まで戻った。
女魔神は老婆にどんな病気も治す「獅子の泉」の水を与えた。
老婆は女魔神の御殿を案内してもらい、その豪華さに驚いた。
老婆は帰るため岩山の扉を出ると、再び入り口が分からなくなっていた。

老婆は王宮に戻り、王と大臣たちに女魔神の宮殿の豪華さを伝え、今度フサイン王子が来たら、魔法の天幕など献上することを要求し、要求に従わなければ殺そうと話した。
フサイン王子に要求を伝えると、フサイン王子は承諾し、御殿に帰って女魔神に相談した。
女魔神は魔法の天幕を出し、シャイバールという名の身長40~50cmで、ひげが10mもある力持ちの魔神を呼び出し、フサイン王子のお供をして王宮に行くように言った。

王宮に着くとシャイバールは、フサイン王子の謀反を疑ったとして老婆と大臣たちを鉄棒で殴り殺し、王には退位を迫った。
王は退位して修道僧になり、長男アリ王子と隠遁した。
フサイン王子は新しい王になり、次男ハサン王子は、陰謀に加わっていなかったので、王国の最も豊かな地方の領主となった。
フサイン王子は女魔神の妻と幸せに暮らした。

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次回は、「真珠華」の物語です。

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