愛すべきダメ人間・種田山頭火！酒を注いで作られた８万４千句もの自由律俳句を愛でてみてはいかが？

2015/10/2 日本文化

秋の夜長に思わず口ずさんでしまう、今回は季語や五・七・五という俳句の約束事を無視し、自身のリズム感を重んじる「自由律俳句」を詠んだ種田山頭火です。
大正・昭和の俳人ですが、俳句を取ってしまうと終始泥酔飲みのダメ人間しか残らない。
それでも、そういったことを度外視させてしまう愛すべき俳句は実に８万４千句を超えています。

10歳の時に、母が自宅の井戸に身を投げ、心に深い傷を残した少年。
31歳、俳句を本格的に学び始め、34歳には俳句誌の選者の一人になるも、翌月に家業の「種田酒造場」が倒産。
父は家出、兄弟は離散、山頭火も夜逃げ同然で妻子を連れ九州に渡る。
その後、熊本市内に開業するも失敗。
36歳、弟が借金に耐え切れずに自殺。
37歳、職を求めて単身上京するも、翌年妻から離婚状が届き判を捺す。
40歳、神経症の為に退職、翌年関東大震災で焼け出され、熊本の元妻のもとで居候となる。
42歳、熊本市内で泥酔し市電の前に立ちはだかって自殺未遂。
現場に居合わせた新聞記者が彼を救い禅寺（曹洞宗報恩寺）に放り込む。
翌年出家し、郊外の味取観音堂の堂守となり、生きる為に托鉢を続ける。
44歳、漂泊の俳人尾崎放哉が41歳の若さで死去。放哉の作品世界に共感し、法衣と笠をまとい鉄鉢を持って熊本から西日本各地へと旅立つ。
最初に向かったのは宮崎、大分。
　「分け入っても分け入っても青い山」
続いて中国地方を行乞し、46歳で四国八十八ヶ所を巡礼。
　「こころ疲れて山が海が美しすぎる」
50歳、肉体的に行乞の旅が困難となり、句友の援助を受けて山口県小郡の小さな草庵に入り「其中庵」と命名。
この年から、出家からこれまでの作品をまとめた句集が刊行されていく。
53歳、睡眠薬を多量に飲み自殺未遂。
55歳、無銭飲食のうえ泥酔し警察署に５日間留置。
56歳、積年の風雪で「其中庵」は朽ち果て壁も崩れた為、山口市の湯田温泉に四畳一間を借り「風来居」と名付ける。
57歳、10月10日の夜、一草庵で句会が行われる中、山頭火は隣室でイビキをかいていた。
仲間は酔っ払って眠りこけていると思っていたが、実は脳溢血。
早朝に仲間が戻ってみると、既に心臓麻痺で他界、本人念願の“コロリ往生”だった。

最晩年の日記にはこうあります。
「無駄に無駄を重ねたような一生だった。
　それに酒をたえず注いで、そこから生まれたような一生だった」
辞世の句
「もりもり盛りあがる雲へあゆむ」

生涯旅を愛した山頭火は、今もどこかで酒を煽りながら俳句を読んでいるのでしょうか、

●第一句集『鉢の子』（抜粋）1932年

生死の中の雪ふりしきる
笠にとんぼをとまらせてあるく
歩きつづける彼岸花咲きつづける
まっすぐな道でさみしい
また見ることもない山が遠ざかる
どうしようもないわたしが歩いている
すべってころんで山がひっそり
つかれた脚へとんぼとまった
捨てきれない荷物の重さまへうしろ
あの雲がおとした雨にぬれている
こんなにうまい水があふれている
まったく雲がない笠をぬぎ
墓がならんでそこまで波がおしよせて
酔うてこうろぎと寝ていたよ
雨だれの音も年とった
物乞ふ家もなくなり山には雲
よい湯からよい月へ出た
笠へぽっとり椿だった