ドイツ・ルネサンスを代表する『イーゼンハイム祭壇画』!その作品からグリューネヴァルトを知ろう!

西洋宗教絵画の最高傑作の一つと称えられ、ドイツ絵画史上最も重要な作品の1つである『イーゼンハイム祭壇画』の作者・ マティアス・グリューネヴァルト(Matthias Grünewald)は16世紀に活動したドイツの画家で、デューラーやクラーナハと並びドイツ・ルネサンスを代表する3大巨匠の一人です。
その作品は後期ゴシックの精神に立脚し、形態と色彩の表現主義的な描写の力によって信仰の内面的精神性を表出したといわれ、情け容赦なく無残に傷つけられたキリストの体、悪魔が生みだす幻想に苛まれる聖人、神秘的な光に彩られたキリストの復活、時代を超えた個性的な11枚のパネルからなる衝撃的な祭壇画『イーゼンハイム祭壇画』は、強烈な色彩と光の表現により、二十世紀に花開く表現主義を先取りしたといわれる程に斬新です。

グリューネヴァルトの代表作である、最大幅5m、高さ2.65mの『イーゼンハイム祭壇画』は、ドイツの国境近くに位置するフランス・アルザス地方のクリスマスツリー発祥地として名高いコルマールの「ウンターリンデン美術館」に収蔵されています。
この祭壇画は、もともとのイーゼンハイム村(当時アルザス地方は神聖ローマ帝国領)の聖アントニウス会修道院付属聖堂に置かれており、祭壇の本尊である聖アントニウスの彫像を中に納めた祭壇の扉になっていました。
この扉が閉じられている状態が、A図(平日面)、観音開きのように開いたものがB図(日曜面)、この面をもう一度開くと厨子が拝めるという具合で、開かれた扉の裏面がCの絵ということになります。

Isenheim Altarpiece1

A図は左翼に「聖セバスティアヌス」、右翼に「聖アントニウス」が描かれ、中央には、劇的な「キリスト磔刑」が描かれています。
この新約聖書マタイ福音書に記される「キリスト磔刑」は、宗教的な象徴として沢山の絵の題材として描かれてきたものですが、ここにみられる劇的表現は痛々しいほどの残虐性と人類が背負う罪深さ、そして深い聖性を併せ持つ類稀な磔刑表現として今なお人々の心を打ち続けています。
下部の横長部分は、プレデッラと呼ばれ、十字架から降ろされたキリストが描かれています。

中央イメージ「キリストの磔刑」の十字架上のキリスト像は、凄惨で生々しい描写で、キリストの肉体にはまったく理想化が加えられておらず、十字架上のキリストの肉体はやせ衰え、首をがっくりとうなだれ、苦痛に指先がひきつっています。
ここには、十字架上のキリストの左右に聖母マリア、マグダラのマリア、使徒ヨハネ、洗礼者ヨハネなどが配されている。失神した聖母マリアを使徒ヨハネが支え、マグダラのマリアは手を上げて祈っている上、すでに斬首されているはずの洗礼者ヨハネも描き入れられており、右手に開いた福音書を持って、左示指でキリストを指さしています。
左パネルには、ペスト(黒死病)患者の守護神であった聖セバスティアヌスが、何本もの矢が刺さった状態で描かれています。
右パネルには、「聖アントニウスの火」という麦角中毒の患者の守護神である聖アントニウスがT字型の杖を持っていますが、これは古代エジプトにおける不死の象徴であったエジプト十字の形をしています。
プレデッラには《キリストの埋葬》の場面が描かれていますが、聖母マリアの顔は、ヴェールで覆われて見えません。

Isenheim Altarpiece2

B図は、一転して輝かしい画面となります。
左から「受胎告知」、天使達に祝福される「キリスト降誕」、力強く輝かしい「キリスト復活」となります
「受胎告知」には聖母マリアと大天使ガブリエル、「天使の奏楽」には古楽器を演奏する天使が描かれていますが、宙に浮かぶ異形の存在も描かれております。
「キリストの降誕」の聖母子には金色の光が直接注ぎ、幼子イエスは聖母マリアのロザリオで遊んでいます。
「キリストの復活」の下部に描かれた兵士たちは寝込んでおり、光り輝くキリストは誰の目にも触れることなく昇天している状態です。

Isenheim Altarpiece3

C図の中央の厨子には、左から右に「聖アウグスティヌスの立像」、「聖アントニウスの座像」、「聖ヒエロニムスの立像」が並んでいます。
左翼のパネルは「隠者パウルスを訪れる聖アントニウス」であり、白い衣を着た隠者が聖パウルスです。
右翼のパネル「聖アントニウスの誘惑」は恐ろしい画であるが、上部に描かれたキリストの光によって聖アントニウスは救われるのです。
「聖アントニウスの誘惑」の左下の男はこの麦角中毒患者特有の症状を呈しているが、この患者もキリストの光によって救済されるのです。

この祭壇画のあった「聖アントニウス会修道院付属施療院」はいわゆる「聖アントニウスの火」すなわち流行性の疫病・麦角中毒患者の救済を主な任務としていたことから、麦角中毒患者はこの祭壇画の厳しいA図を見て、自らの苦痛を十字架上のキリストが共有してくれると感じ、明るいB図ならびに神聖なC図を見ることによって救済を得られたのだと言われています。

永らく忘れられた存在となっていたグリューネヴァルトですが、近年再評価されるようになってきております。
ドイツ絵画史上最も重要な作品の1つともいわれる『イーゼンハイム祭壇画』をきっかけに、グリューネヴァルトの作品を眺めてみてはいかがでしょうか。

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