これまで、吉田松陰の書物や思想からその人間性を読み解いてきましたが、今回は時代の趨勢を正しく掴んでいたと思われる思想の支柱について、考えてみたいと思います。
※)これまでの整理した内容については、以下も参考にしてみてください。
” 留魂録より改めて学ぶ!格調と矜持に満ちた魂の書! ”
” 吉田松陰の命日に想う ”
” 二十一回猛士の説、幽囚録より学ぶ!時代の先見性と世界へ向かう志! ”
” 講孟箚記より学ぶ!人民への至誠を掲げる熱き思い! ”
” 『孟子』滕文公章句と「花燃ゆ」松陰が説く学ぶ意味について! ”
” 孟子より学ぶ!性善説と王道に基づくリーダーの心得! ”
” 武教全書講録より学ぶ!時代に対する危機意識と忠誠観! ”
” 吉田松陰考!偉大なる教育者としての在り方! ”
” 吉田松陰の愛読書と著書を読む! ”
” 正名論より学ぶ!吉田松陰らの明治維新の志士や国体の源流ともいえる藤田幽谷! ”
” 国是三論より学ぶ!龍馬、松陰が敬愛した独立自尊の教え! ”
松陰の核を成していた思想ですが、大きく3つにまとめられるのではないかと思われます。
【その1 飛耳長目】
塾生に何時も、情報を収集し将来の判断材料にせよと説いた、松陰の教えです。
耳を飛ばし目を長くするように広く情報を収集し、それをもとに将来を見通して計画的に行動しなさいという考え方ですね。
時代に対する優れた予見の明をまさに体現した言葉です。
今ほど、思考停止を巧妙に仕込まれた時代はないのではないでしょうか。
無自覚の無知ほど恐ろしいものはありません。
松陰の「飛耳長目」をもっと意識してみようではありませんか!
【その2 草莽崛起】
「草莽」は『孟子』においては草木の間に潜む隠者を指し転じて一般大衆を指す言葉ですが、松陰は”在野にあって地位や名誉を求めるのではなく、国家への忠誠に溢れた至誠の人を言っているのだと思われます。
「崛起」は一斉に立ち上がることを指しますので、こうした至誠を持つ人々が身分を超えて国家を論じると共に、変革に寄与すべし、大業を成すべし、と求めた松陰の魂の言葉ですね。
地位や名誉、目前の自己満足や物質的な満たしは、果たして将来のあなたにどれだけのことをもたらしてくれるでしょうか?
ただ生物的に生き永らえたからといって、精神的に死んだままの状態では、生きとし生ける人としての本質とは大きくかい離しているのではないでしょうか。
私達の生き方は、このような上っ面なものだけでは決してないはずです。
「草莽崛起」を胆に銘じようではありませんか!
【その3 一君万民論】
権威は君主ひとりが生まれながらに有しており、それ以外の人々に身分差別はない、という考え方です。
万民は平等であるという、当たり前の考え方なのですが、尊王攘夷の根底に流れる思想であり、明治維新や近代国家の礎となった考え方でしょう。
これを、天皇主権の危険で過激思想だと一言で片付けることは簡単ですが、裏を返せば一介の同じ国民である一握りの政府(当時の幕府であり藩の重臣達)の面々が、同じ国民を思うがままに牛耳り私利私欲で国家を動かしていくことを厳しく糾弾した言葉といってもいいのではないでしょうか。
同じことは、長らくの平和ボケした思考停止の状況に貶められた国民を、思うがままに(しかも自覚なしに)統率しようとしていくようにみえてしまう、今の日本の状況とオーバーラップするのではないでしょうか。
明治維新以降、松陰のこの言葉が、今こそ心に響いてくる時代はないように感じます。
”至誠にして動かざる者は未だこれ有らざるなり”
もっとひとりひとりが思考停止の状況を改めて自覚し、熟考すべき、行動すべきはまさにこれからです!!!
松陰の「留魂録」に残された言葉を、私達も心に留めて生きて行きたいものですね。
”身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂”