歌舞伎は世界に誇る、日本の伝統芸能です。
しかし、元々400年前に登場したときには、大衆を喜ばせるための一大エンターテイメントだったのです。
なんとなく難しそうなので、ということで敬遠されている方も多いのかもしれませんが、そもそもは庶民の娯楽だったもの。
一度観てみれば、華やかで心ときめく驚きと感動の世界が広がっているのです。
しかも歌舞伎は、単に400年もの間、ただただ伝統を受け継いできただけではありません。
時代に呼応して常に変化し、発展・進化してきているのです。
This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(4) 演目の分類と一覧について
前回は歌舞伎の演目をざっと整理してみましたので、ここからは具体的な演目の内容について触れてみましょう。
今回は、江戸世話物の中から『梅雨小袖昔八丈』です。
『梅雨小袖昔八丈』通称『髪結新三』は、二代目河竹新七作の全四幕から成る世話物です。
新三は、白子屋の番頭忠七をそそのかして、店の娘のお熊を連れ去ります。
新三は、掛け合いにきた親分の弥太五郎源七を追い返しますが、続いてやって来た家主の長兵衛には歯が立たず、30両と引き換えにお熊を手放すことにします。
しかし長兵衛は、新三をやり込めて15両と鰹を半分せしめます。
やがて新三は、顔を潰された恨みから復讐の機会を狙っていた源七に待ち伏せをされて討たれます。
通常、忠七をそそのかす「白子屋見世先の場」から、源七の復讐を受ける「深川閻魔堂橋の場」までが上演されます。
『梅雨小袖昔八丈』
序幕
【白子屋見世の場】
江戸新材木町に大店を構える材木問屋の白子屋は、主の庄三郎が商売をしくじり、さらに庄三郎が病死してからはいよいよ左前となってまともな材木を仕入れることも出来ず、五百両という大枚の借金を作っていた。
庄三郎の女房お常は後家として白子屋を守ってきたが、この五百両の返済に窮し、やむなく一人娘のお熊に婿をとらせて凌ぐことにした。
その婿の持ってくる持参金によって借金を返済しようという心積りである。
お熊はすでに店の手代忠七と恋仲であり婿取りを嫌がるも、母お常の説得にいったんは承知するしかなかった。
婿取りの話を聞いた忠七もお店やお常への義理を思い、致し方ないとお熊のことを諦めようとする。
それでもお熊は祝言をさせられるのが気に染まず、自分を連れて駆け落ちしてくれと忠七に訴える。
だがその様子を、白子屋に出入りする廻り髪結の新三が表で聞いていた。
忠七はなんとかお熊をなだめ、お熊は奥へゆき忠七ひとりきりとなる。
そこへ新三が入ってきて、忠七の髪を撫で付けながらお熊との駆け落ちを熱心に勧め、隠れる所に困るなら深川の富吉町にある自分の住いに来るといいといって白子屋を出る。
それを聞いていたお熊も再び奥より出て、忠七に今宵のうちに連れて逃げて、そうでなければ身を投げて死ぬとまでいうので、忠七も性根を据えてお熊との駆け落ちを決意するのだった。
【材木町河岸の場】
暗い時分となり、忠七とお熊は白子屋を抜け出して近くの材木河岸まで来て新三と落ち合う。
新三は駕籠を用意しており、お熊をそれに乗せると新三の住いに向い、新三と忠七もその場を去る。
その忠七を白子屋の女中お菊がすれ違いざまに見るが、お熊と忠七が姿を消したという知らせを聞き、そんならもしやと思うところへ五月の雨が降り出した。
【永代橋川端の場】
お熊を乗せた駕籠は永代橋を通り過ぎ、その後を遅れて新三と忠七が相合傘で雨をよけながら道を行く。
しかし忠七が履物の鼻緒を切らしたのを汐に新三はそれまでの態度を変え、ひとり道を急ごうとする。
鼻緒をすげるから待ってくれという忠七に、新三はもとからお熊を自分のものとするために連れ出したのだと悪態をつく。
騙されたと知った忠七は新三に取り付くが、傘で散々に打たれ、挙句は下駄で殴られると額より血を出して倒れる。
それを新三はざまあみやがれとせせら笑いながら去った。
ひとり残された忠七はあとを追おうとするも、新三の住いが富吉町のどこかは聞いていなかった。
忠七は自分のしたことを悔い、お熊やお常への申し訳に永代橋から身を投げようとする。
それを止めたのは、白子屋にも知られた乗物町の侠客弥太五郎源七であった。
二幕目
【乗物町源七内の場】
次の日のこと。
お菊のおじでこれも白子屋に出入りする車力の善八は、お常に新三からお熊を取り返すよう言い付かったが、もともと人のよい善八は新三のようなチンピラとやりあう度胸が無い。
そこで乗物町の親分源七を頼ろうとその家を訪ね、源七に事情を話し、お熊を取り返してくれるよう頼む。
源七もそのあらましは聞いていたものの、新三のような小物を相手にして、もしうまくいかなかったら沽券にかかわる…と気乗りがしなかった。
そもそも新三は、上総無宿で入れ墨の入った前科者という小悪党である。
しかし話を聞いていた源七の女房お仲も口添えするので、源七もやっと腰を上げ、善八とともに新三のもとへと向かうのだった。
【富吉町新三内の場】
新三の住む富吉町の長屋では、新三の子分の勝奴が留守をしており、連れて来られたお熊は新三に散々慰みものにされた挙句、戸棚に押し込められている。
新三が湯屋より帰り、来合わせた棒手振りの魚屋から初鰹を高い値で買う。
そこへ善八を連れて源七が訪れた。
新三は源七たちを内に通す。
源七がお熊の話をするが、新三はお熊とは惚れあった仲だからここに連れて来たと返すのを拒む。
そこで源七は、どうせ金づくになるだろうと思い用意していた十両を出し、これで収めてお熊を返すようにいう。
するとそれまで下手に出ていた新三は顔色を変え、十両を源七の顔に叩きつけ、散々に悪態をついた。
これには源七も我慢ならず、差していた刀を抜こうとするが、善八が必死にすがって止める。
致し方なく源七は、腹に据えかねたもののそのまま新三の内を善八とともに引き上げるのだった。
その時、この長屋の家主の女房お角が源七と善八に声をかけてきたが、源七は善八を残し去る。
【同 長屋家主内の場】
善八は家主の長兵衛のところに連れてこられ、長兵衛は自分が新三にかけあってやるというので善八は長兵衛を頼むことにした。
さらに善八が白子屋から預かっていた三十両を出すと、長兵衛はそれを持って新三のところへ向かう。
【元の新三内の場】
新三と勝奴は鰹を肴に酒を飲んでいる。
そこへ長兵衛が来る。
長兵衛は新三たちと一緒に飲みながらお熊のことを持ち出し、お熊を返すのに三十両で了見しろという。
はたして新三は三十両と聞いてごねたが、今度は長兵衛がそれまでとは様子を変え、入れ墨の入った前科者でかどわかしをするような店子は置いておけないから出て行け、それが嫌なら三十両で収めろと新三に迫る。
その剣幕にさしもの新三も我を折り、渋々ながらお熊を返すことにした。
戸棚に押し込めていたお熊を引き出し長兵衛に渡すと、長兵衛はそれを善八に渡し、お熊は駕籠に乗せられ善八とともに白子屋へ帰った。
お熊を見送った長兵衛に、新三は三十両をねだる。
すると長兵衛は十五両だけを渡した。
これを不審に思う新三、しかし長兵衛は「鰹は半分もらった」とばかり繰り返す。
つまりは骨折り賃に自分が半分貰うのだということである。
新三は驚いてお返し申しますと十五両を投げ返したが、それを見た長兵衛が、それならてめえの悪事を訴え出るとまた言い出すので、新三は十五両を受け取るよりほかなかった。
そこへお角が来て新三が店賃を溜めていたというと、さらに店賃の分二両も差し引かれた。
ところがその時、長兵衛の家に空き巣が入り、箪笥の中身をそっくり持っていったとの知らせ。
これにお角は目を回し、長兵衛はびっくりして自分の家へと駆けてゆく。
新三と勝奴はこれを見て、やっと溜飲を下げるのであった。
三幕目
【材木町白子屋の場】
お熊の戻った白子屋に五百両の持参金を持って婿が入った。
大店桑名屋のもと番頭だった又四郎である。
しかしせっかく婿入りしてお熊と祝言を挙げたはずの又四郎はお熊に寝所から遠ざけられ、使用人たちも陰で又四郎の顔かたちを化け物といって馬鹿にするので又四郎は腹を立て、ついに白子屋から出てゆくと言い出す。
又四郎は今はお店にいない忠七の事も耳にしていた。
そこへ仲人役の加賀屋藤兵衛やお常が来てなだめるのでどうにか収まり、今夜ついにお熊と寝所を共にできると聞いて又四郎は喜ぶ。
【白子屋奥の間の場】
一方お熊は忠七のことが忘れられず、忠七へ婿取りをしたことの申し訳に自害しようとしていた。
書置きをして刀を抜き、自らの喉元へ向ける。
それを又四郎が見付けてお熊を止めようとしたが、刀を取り上げようとする又四郎と争うはずみに、お熊は誤って又四郎の脇腹を刀で突いてしまう。
手を負わされた又四郎は、さては忠七という者がいるから邪魔な俺を殺すのだなと怒り、刀を取ってお熊を殺そうとする。
お菊が飛び出し又四郎を止めるが、なおも怒りに駆られお熊を殺そうとする又四郎、思い余ったお菊はお熊を守るため又四郎の手から刀をもぎ取り、数度にわたって又四郎に斬り付け、とどその脇腹に刀を突っ込むと又四郎は苦しみながら事切れた。
すると間をおかずに今度はお菊がその刀で自分の喉をつく。
この騒ぎにお常や善八も出てきて、この場の有様を見て仰天する。
お菊は自分がお熊の身替りとなって死ぬつもりだと述べ、皆が悲しむ中で事切れるのだった。
【深川閻魔堂橋の場】
ところであの弥太五郎源七は、新三に面目を潰されたのを忘れることができず、さらに子分の銀次が勝奴に賭場で痛めつけられたと聞き、もう堪忍がならぬとその遺恨を晴らすことにした。
深夜に雨の降るなか、源七は蓑を着て深川の閻魔堂橋まで出向くと、そこに蕎麦屋の屋台があったので蕎麦を一杯頼んだ。
源七は蕎麦屋から、新三がいる賭場の場所をそれとなく聞き確かめる。
蕎麦屋は去り、源七は新三がここを通りかかるはずと物陰に隠れて待った。
やがて傘を差した新三と勝奴が通りかかり、銀次を痛めつけたことから源七の悪口を言い合っていたが、新三は勝奴に用を言いつけ、勝奴は新三の提灯を借りて来た道を引き返した。
新三はそれを見送ってひとり歩もうとすると、源七が姿を現す。
源七は刀を抜いて新三に斬りかかり、新三は傘や匕首で歯向かうが源七に手を負わされついには殺された。
そこへ以前の蕎麦屋が戻ってきて倒れた新三の死骸につまづきびっくりし、源七はその場を逃れる。
【佐賀町居酒屋の場】
閻魔堂橋近くの佐賀町にある居酒屋は、三右衛門とおさがという老夫婦が営む小店で、源七が普段から馴染みにしていた。
三右衛門夫婦は駕籠舁きから、近くで人殺しがあったらしいとの話を聞く。
いっぽう閻魔堂橋を逃れた源七はこの居酒屋の前を通りかかるが、それを見かけた三右衛門が声をかけた。
素通りするつもりだった源七は却って怪しまれるのを恐れ、店先に腰掛けて酒や肴を頼む。
客はすでに源七ひとりだけである。
しかし三右衛門は源七の胸元に血が付いているのを見つける。
源七は、これは今来た途中で野良犬にからまれそれを斬ったのだとごまかすが、三右衛門は最前聞いた人殺しの話と思い合わせそれと察し、ぐれて勘当同然にしていた息子が立派になって戻ってくるという話に事寄せ、ばくち打ちの稼業はもうやめたほうがいいと意見する。
それを聞いた源七は三右衛門の心根に感じつつ、店を後にした。
【佐賀町河岸の場】
源七は三右衛門の言葉を思い出しながら佐賀町河岸を行く。
すると三右衛門があとを追いかけてきた。
源七が手ぬぐいを店に置き忘れたので届けに来たという。
その手ぬぐいには血がついていた。
源七「とっさん如才もなかろうが、今夜のことは」、三右衛門「けして人には申しませぬ」。
源七は手ぬぐいを受け取ると二つ折りにして結び、それを近くの川に投げ込むのだった。
四幕目
【御堀土手の場】
しかし源七は、結局新三殺しの疑いがかかり町奉行所に呼ばれることになった。
方々で身を隠していた忠七は恩のある源七の様子を伺おうと奉行所に行くと、善八に出会う。
善八の話によればお熊が忠七のために死のうとして、誤って婿の又四郎に手を負わせ死なすことになったのを、お菊がした事として一旦は届けたが、お熊が改めて自分がした事だと届け出たのでこれも今日呼ばれているのだという。
これを聞いた忠七は、こんなことになったのも自分のせいであり、申し訳なさに生きてはいられぬと悔やみ、せめてこの上は源七のために人殺しの罪を被って死のうと決意する。
【町奉行所の場】
町奉行大岡越前守が臨席のもと、新三殺しと又四郎殺しについてのお白洲が開かれた。
忠七が源七の罪を被ろうと、新三を殺したのは自分だと訴えるが、越前は源七を庇うための偽りと見破る。
また源七が閻魔堂橋に置き忘れた蓑も証拠となり、源七は新三殺しを認める。
お熊、お常、善八が呼ばれ、お熊は又四郎が死んだときの様子やお菊の事を話す。
本当の事を話せば自分が夫殺しの咎で死罪になるにもかかわらず、お菊に対してすまぬと思い正直に話したお熊、また主筋に当たるお熊を思いその罪を被り、自害して果てたお菊の心根に越前は、男子も及ばぬ心底と感じ、「この趣きを進達なし、寛仁のご沙汰願うてやるぞ」とお熊たちに言う。
源七は入牢、お熊は母お常が身柄を預かるというお裁きが下り、皆その場を立つのだった。