【千夜一夜物語】(60) スレイカ姫の物語(第876夜 – 第881夜)

前回、”バグダードの橋上でアル・ラシードの出会った人たち”からの続きです。

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昔、ダマスに、あるウマイヤ朝の教王(カリーファ)がいたが、ある晩ある大臣が、退屈をなぐさめるため、若い頃の話をした。

大臣は名をハサンと言い、アブドゥッラーという豪商を父としてダマスで生まれた。
ハサンはあらゆる学問、あらゆる言語を習得したが、父が死に、浪費を始め、一文無しになった。
生前父が「困ったら庭の木にぶら下がれ」と言っていたことを思い出し、首を吊ると、木が裂け、幹の中から大量の宝石が出てきた。
16歳のハサンは宝石を持ってペルシャのシーラーズに行くことにした。

シーラーズに着いたハサンは、大臣に気に入られ、国王サーブル・シャーに謁見し、侍従に取り立てられた。
ハサンは侍従の仕事を励んだが、ある日、庭で昼寝をしてしまい、目を覚ますと夜になっていた。
その庭は、夜は後宮の女たちしか入れない庭で、男が夜入ると死刑になる庭であった。
ハサンは庭から逃げ出そうとしたが、カイリヤという美しい乙女と出会い、会話をするうち、カイリヤが唇を重ねて来たので、カイリヤを襲おうとしたら、回りから10人の乙女が出て来て一斉に笑い出した。
ハサンは、からかわれたことを知り非常に困惑した。
すると、スレイカ姫が出てきて、ハサンと11人の侍女を部屋に連れて行き、ハサンを飲食で歓待したあと、「ここに居る12人の乙女の中で誰が一番好きか」と聞いてきた。
ハサンは、いずれも美しい乙女たちであり、答えると他の乙女たちの恨みを買うと思い黙っていたが、あまりに重ねて聞くので、ついに「スレイカ姫が最も美しいが、カイリヤが最も好きだ。」と告白した。
ハサンは夜通し乙女たちと遊び、夜明けに秘密の通路を通り後宮を出て、家に帰った。

翌日、カイリヤから手紙があり、ハサンは再び後宮に忍び込み、カイリヤと会った。
カイリヤはハサンに「スレイカ姫がハサンのことを密かに思っているが、スレイカ姫とカイリヤのどちらを選ぶか。」と聞いてきた。
ハサンは「スレイカ姫の身分がいかに高くとも、カイリヤを選ぶ。」と答えた。
すると、カイリヤは「実は、カイリヤが真のスレイカ姫で、スレイカ姫を名乗った乙女が侍女のカイリヤで、ハサンの愛を試すため身分を隠して気持ちを確かめた。」と言って、その夜は2人で過ごした。

その翌日は、スレイカ姫からの手紙は来ず、後宮の警備が厳重になっているのが見えた。
その翌日、「しばらく会えないが、決して早まらないように。」との手紙が来た。
その翌日、スレイカ姫の死去が報じられ、ハサンは悲しみのあまり7日間寝込んでしまった。
ハサンはシーラーズの町を去ろうと考え、財産をまとめて町の外の道を歩き出したが、騎士に変装したスレイカ姫が追いかけてきて、2人は再会した。
スレイカ姫は、後宮に男が侵入していることが噂になり警備が厳重になったため会えなくなったこと、死んだふりをして後宮から逃げ出したことをハサンに教えた。
2人は旅をし、ダマスに着き、ハサンは教王に仕えるようになり、後に大臣になったのであった。

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次回は、のどかな青春の団欒です。

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