【千夜一夜物語】(13) 「ほくろ」の物語(第250夜 – 第269夜)

前回、”「幸男」と「幸女」の物語”からの続きです。

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昔、カイロの町に、シャムセッディーンという名の町一番の豪商がいたが、結婚後40年たっても子どもができず、夫婦仲が悪くなっていた。
シャムセッディーンは「胡麻」という遊び人の仲買人に相談したところ、胡麻はシナ産蓽澄茄(ひつちょうか)の煮詰めた菓糖2オンス、イオニア産大麻の濃いエキス1オンス、生の丁字1オンス、セレンディプ産赤い肉桂1オンス、マラバル産白い小豆蒄(しょうずく)10ドラクム、インド産生姜5ドラクム、白胡椒5ドラクム、唐辛子5ドラクム、インド産大茴香(ういきょう)の星型の漿果(しょうか)1オンス、立麝香草(たちじゃこうそう)半オンス、蜂蜜、麝香5粒、魚卵1オンスから秘薬を作り、シャムセッディーンがそれを服用したところ、たちまち妻が妊娠した。
生まれた男の子は、両頬と左の尻にほくろがあったので、「アラエッディーン・ほくろ」と名づけられた。
両親は邪視を恐れ、ほくろを地下室に住まわせ、一流の学者にあらゆる学問を教えさせた。

ほくろが14歳になったとき、シャムセッディーンは、世間で跡継ぎがいないと思われていて、死んだ場合財産を国に取られかねないことを恐れ、ほくろを表に出すことにした。
お披露目の会で、「両刀使いのマハムード」はほくろに目を付け、子どもたちを使いほくろに旅の経験がないことをからかわせ、旅に出るよう仕向けた。
ほくろは旅を決意し、両親に無理を言って隊商を組んでもらった。
シャムセッディーンはラクダ曳きの親方カマル老人に旅の安全を託した。

ほくろの隊商がカイロを立つと、両刀使いのマハムードもすぐに隊商を組んで後を追いかけ、ほくろに言い寄ったが、カマル老人はマハムードの魔手からほくろを守った。
一行はダマス、アレプと商売の旅を続けたが、アレプを立った後、両刀使いのマハムードは、ほくろを宴会に誘い、ほくろはカマル老人の反対にもかかわらず、宴会に行った。
宴会のテントで、両刀使いのマハムードがほくろにキスをしようとし、言い寄ったため、ほくろはあわてて逃げ帰った。
ほくろは驚き、一刻も早く両刀使いのマハムードから離れようと、カマル老人の反対にもかかわらず、他の隊商と別れ、自分の隊商だけバグダードに向け出発した。
バグダードまであと少しという所まで来たとき、ほくろは「美しい朝のバグダードを見たい」とバグダードの外に野営すると言い出し、カマル老人の「ここは犬の谷という盗賊の出る場所なので、一刻も早くバグダードに入るべきだ」という忠告も聞かず、野営した。
隊商は盗賊に襲われ、ほくろ以外全員が殺された。
失意のほくろは一人バグダードに逃げ延び、市内の泉の所で眠った。
ほくろは両刀使いのマハムードに助けられたが、夜になると再び逃げ出した。

ほくろが夜のバグダードをさまよっていると、「解除人」を探している男とその父に出会った。
解除人とは、夫が妻を離婚した場合、2回目まではすぐに復縁できるが、3回目の離婚の場合は一旦妻が別の男と結婚し一夜を過ごしてその男と離婚しない限り復縁できないというイスラムの教えに従い、3回目の離婚の後一時の夫となる者のことであった。
ほくろは解除人を引き受け、男の元妻のゾバイダと一夜を過ごすことになったが、互いに本当に好きになってしまい、翌朝離婚をしないと言い出した。
違約金の1万ディナールを払わなければならないことになったが、法官(カーディー)は若い男が好きだったため、ほくろが流し目を使うと、違約金の支払いを10日待ってもらえることになった。
ほくろは、10日の猶予期間を、金の当てもないまま、ゾバイダと愛し合い過ごした。

そんな中、ある夜ゾバイダが歌を歌っていると、修道僧に変装した教王(カリーファ)ハールーン・アル・ラシードと大臣ジャアファル・アル・バルマキー、御佩刀持ちマスルール、詩人アブー・ヌワースの4人組が歌に誘われやって来て、事情を聞き「1万ディナールを渡してあげよう」と言い、宴を楽しみ翌朝去って行った。
しばらくすると、アビシニアの少年サリームに率いられた隊商が、シャムセッディーンからの手紙と5万ディナール分の商品とゾバイダへの贈り物を持って現れた。
手紙には、違約金1万ディナールが払えるよう、父シャムセッディーンが隊商を遣わしたと書いてあった。
ほくろは違約金を払ったが、元夫はゾバイダを失った悲しみで死んでしまった。

その夕方、再び教王に率いられた4人組が修道僧に変装してやって来た。
ほくろは、1万ディナールを渡してくれなかったので不機嫌であったが、ゾバイダは歌を歌い宴を盛り上げた。
詩人アブー・ヌワースはほくろに、カイロまで45日かかるのに、なぜ隊商がすぐに来たと思うかと尋ね、あの隊商は実は教王の遣わしたものだったと悟らせた。
教王はほくろを重用し、バグダードの商人の会頭にし、さらに、掌酒子の長、内務卿と昇任させた。
ほくろは、任務を忠実に果たした。

ある日、教王は、ほくろに女奴隷を贈ることにし、ジャアファルに奴隷を買ってくるように命じた。
ヤサミーン(ジャスミン)という女奴隷が競売に掛けられたとき、カーレドという名の貴族の息子で14歳になる「ぶくぶくでぶ」という醜い肥満の子と、ジャアファルが競り合いになり、ジャアファルが競り勝ち、ヤサミーンはほくろのものとなった。

「ぶくぶくでぶ」があまりに悲しんだため、「ぶくぶくでぶ」の母は、ヤサミーンを奪い取ることを考え、老婆を雇った。
老婆は「蛾のアフマード」の母で、牢にいる蛾のアフマードを助けてくれたらヤサミーンを奪うと言った。
貴族カーレドは教王に蛾のアフマードを助けることを願い出、教王は蛾のアフマードを警察長官に任命した。

蛾のアフマードは、教王の宝物である琥珀とトルコ石を連ねた数珠、ルビーの柄頭の剣、玉璽、黄金のランプの4品を盗み、黄金のランプは自分の物にし、残り3品はほくろの屋敷に埋めた。
宝がなくなったことに気付いた教王は激怒し、警察長官の蛾のアフマードに宝の捜索を命じた。
宝の内3品はほくろの屋敷で見つかり、ほくろは捕らえられ、死刑になるが、警吏の長が、別の死刑囚をほくろの替え玉にし、ほくろをアル・イスカンダリア(アレクサンドリア)に逃がした。
ほくろの妻ゾバイダは警吏の長にかくまわれるが、女奴隷ヤサミーンは貴族カーレドのものとなり「ぶくぶくでぶ」に与えられるが、「ぶくぶくでぶ」との関係を拒み、台所係の女奴隷となった。

ヤサミーンはほくろの子を身ごもっており、生まれた子は男の子でアスラーンと名づけられた。
アスラーンが2歳のとき、カーレドは美しいアスラーンを気に入り養子とし、一流の学者につけ大切に育てた。
アスラーンが14歳のとき、酒場で蛾のアフマードと偶然出会い、黄金のランプを持っているのを見た。
アスラーンは教王と話す機会を得て直訴し、教王が蛾のアフマードを調べさせると黄金のランプが見つかったので、蛾のアフマードは死刑になった。
警吏の長は、実はほくろはアル・イスカンダリアで生きていると教王に申し上げたので、教王はほくろを連れてくるよう言った。

アル・イスカンダリアに行ったほくろは、ある店を買い取り、商売を始めたが、その店の棚に紅瑪瑙のお守りがあった。
ある日、ある船長がその紅瑪瑙のお守りを10万ディナールで買うことになり、ほくろは代金を受け取りに船まで行ったが、そのまま船は出港し、キリスト教国のジェノアに行ってしまった。
ほくろは教会の下働きをすることになるが、教会にジェノアの国王の娘であるホスン・マリアム王女が来て、紅瑪瑙は王女のものであり、魔法でほくろの美しさを知り、ほくろに会うために魔法の力でほくろをジェノアまで引き寄せたと言った。
ほくろが帰りたいと言うと、マリアム王女は魔法の空飛ぶ寝台を出し、2人は寝台に乗って一瞬でアル・イスカンダリアに着いた。
そこに警吏の長が来たので、3人で空飛ぶ寝台に乗り、途中カイロに寄り、父シャムセッディーンと母を乗せ、5人でバグダードに着いた。

ほくろは教王から許され、重職を得た。
ほくろは、このような不思議の原因となった両刀使いのマハムードに感謝し、警察長官に任命した。
ほくろは、ゾバイダ、ヤサミーン、ホスン・マリアムの3人の妻に囲まれ、幸せに暮らした。

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次回は、博学のタワッドドの物語です。

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