『資治通鑑』とは、「温公通鑑」や「涑水通鑑」とも呼ばれ、中国北宋の司馬光が1065年の英宗皇帝の詔により編纂した、戦国時代の始まりから959年の北宋建国の前年に至るまでの1362年間の内容が収録されている、全294巻から成る編年体の通史・年代記・歴史書です。
歴代の事績を明らかにし、皇帝の政治の参考に供する意味で名づけられた書物で、政治、経済、軍事、地理、学術など広く各分野にわたっており、300を超える膨大な原史料から彼の儒教的歴史観に基づいて編集しており、すでに散逸した根本史料を含む唐・五代の部分の史料的価値も高い、中国の代表的な史書です。
その著述は厳格な君臣の別、華夷の別を明らかにすることで貫かれており、為政者としての君主の範となる事例が豊富。
そのため南宋の朱熹(朱子)はこの書をもとに『資治通鑑綱目』を著し、大義名分論を完成させたともいわれています。
そんな『資治通鑑』は、坂本龍馬、西郷隆盛、水戸光圀、北畠親房、 そして毛沢東が愛読した“幻の歴史書” と呼ばれ、『資治通鑑』を読まずして中国は語れない! 中国人を理解することはできない! ともいわれています。
しかしこの『資治通鑑』、『史記』や『漢書』と並ぶ超一級の歴史書でありながら、日本では現代語の全訳が出版されたことがなく、現在も抄訳しか存在しないのだそうです。
※)幾つかのサイトには日本語訳がありますので、詳細の中身については以下も参考としてみてください。
・資治通鑑
・ほぼ訳!シリーズ
・『資治通鑑』邦訳Wiki
よく、論語や十八史略だけを読んでいる限りでは中国は永久に分からないとも言われるのですが、というのも『資治通鑑』は史実に忠実であることを旨としており、そのため悪事についても数限りなく書き連ねられているのです。
次々と発生する盗賊や軍閥の理不尽な寇掠と暴行、それに引き続いて起こる大飢饉、まさに広大な生き地獄の世界が際限なく描かれているのがこの『資治通鑑』。
中国には善(徳・仁・義)の実現をめざし、命がけの行動を起こした人が数多く存在しました。
その人たちの信念の強さやしぶとさは、ある面では日本人を遥かに凌駕しています。
そのため、中国の悪だけでなく善のありとあらゆるパターンが全て網羅されている『資治通鑑』という長編ドキュメンタリーは、中国社会の実相と、日本人には到底想像しえない善悪のとてつもない振れ幅を知るのに非常に有益な書であるといえるのです。
あの国では法律や常識は身を守る役に立たず、各人が状況を把握し、理屈は二の次として、とにかく自分で判断し、行動することが求められます。
日本流の誠心誠意が分かってもらえるはずという楽観的な考えは無力で、私達には思いもつかないような策略や策謀が、そこには存在しているのです。
互いの妬みや怨みを利用し、高位者を利用して報復し、味方をも欺き、おだてて自滅を待ち、しかも表では友好を装い、裏では陥れる策を練り、奸計で無実の人を陥れ、面子を守るためには、不正・不義も断行すると共に、義を貫くためには汚い手段も辞さない。という思考。
私達が『資治通鑑』を読むということは、改めて考えの及びのつかない隣国の価値観や根本理念をきちんと理解していく、ということでもあるのです。
こうした背景をきちんと理解するためにも、一読しておくべきでしょう。