今日(11月13日)は、京都嵐山法輪寺で木地師の祖ともされる惟喬親王が漆や漆器の製法を祈願し成就したとされる”漆(うるし)の日”です。
今回は漆にちなんで、日本を代表する伝統工芸の漆器について触れてみます。
漆器(しっき)は、木や紙などに漆を塗り重ねて作る工芸品で、英語では磁器を”china”と呼ぶのに対して漆器を”japan”と呼ぶことからも判るように、欧米では日本古来の特産品と考えられています。
漆器というよりも、各種装飾がなされた漆塗という方が正しいのかもしれません。
放射性炭素年代測定により中国の漆器を大幅に遡る約9000年前の縄文時代前期の装飾品であると確認されていたり、各所での古くの遺跡から判断されることからも、漆器の起源は日本であるとみて間違いないでしょう。
そんな漆ですが、現在では国産の漆の生産量はごく僅かで、大半を中国から輸入しているような状況です。
もともと漆の国内生産量は19世紀後半には780t超であったものが現代では1t程度、漆器生産額は全盛期の約1/6程度の落ち込むという惨憺たる状況です。
こういた背景には、
・大量生産・大量消費により、手作業産業を過小評価する傾向にあり、
・安価なプラスティック製品の普及により、消費と廃棄の使い捨て生活ではその重要度が低くなり、
・居住環境の変化や冠婚葬祭などの数の減少により使用量自体が更に減り、
・スーパー・デパートなどでの展示販売方式への追従遅れや
・安価な類似商品を扱う格安SHOPとは相容れない高価値の商品性
などがあります。
しかし漆の注目すべきは、
・天然の高分子で、塗りや廃棄時にも不要な公害やごみを出しませんし、環境に非常に優しい塗料であり、
・抗菌作用があり、保温性が高く、酸などにも強く、修理可能なリサイクル品であり、
・しかもアジア全域で計画的な植栽が可能な循環型塗料であり、
・関連分野は工芸、歴史、材料科学、理工、医学など多岐に跨っている
ことですので、各種分野との協賛・協業により、今後も更に裾野を広げていける漆芸文化・産業なのです。
せっかくですので、そんな漆器に用いられる技法を整理してみましょう。
蒔絵(まきえ): 蒔絵筆によって漆で文様を描き、その漆が乾かないうちに金粉、銀粉をまき付け、研ぎ出しや磨きを行うことで模様を作り上げる。平蒔絵、研出蒔絵、高蒔絵などの日本独自の技法がある。
沈金(ちんきん):沈金刀で漆の表面を線刻し、その彫り跡に金箔や銀箔を埋め込んで文様をつくる。
螺鈿(らでん):アワビや夜光貝の貝殻を薄く研磨したものを漆の表面に埋め込む。貝殻の真珠質が見る角度によって青や白など、様々な輝きをみせる。
拭き漆(ふきうるし):顔料を加えていない漆を木地に塗ってはふき取る作業を何度も繰り返し、木目を鮮やかに見せる手法。
彫漆(ちょうしつ):漆を何層も厚く塗り重ね、その漆の層を彫り出して文様を描く技法。
堆朱(ついしゅ):朱色の漆を何十回ないし100回以上も塗重ねてから模様を彫る技法。元は中国の技法。
蒟醤(きんま):沈金と似ているが、金ではなく色漆を充填したもの。タイから伝わった。
その他:スクリーン印刷のような比較的安価な機械化された技法もある。
現代では欧米化が進み、あまり重要視されていない漆器ですが、日本には世界に誇れる見事な漆塗工芸品が多々あります。
しかしながら、漆剛毛・蒔絵筆をはじめとして、漆器産業を支える基本的な土台事態が危機的状況に陥っています。
こうした伝統工芸品や周辺産業は、大事な文化として今後も大切に、かつきちんと伝承していくことが未来の日本に対する義務であるとも思います。
漆塗は、日本人古来の基層文化のひとつともいえます。
KickStarterなどのクラウドファウンディングも通じて、民間レベルでもきちんと維持・管理・伝承していく仕組みを構築し、未来永劫伝承していければいいですね。
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