歌舞伎は世界に誇る、日本の伝統芸能です。
しかし、元々400年前に登場したときには、大衆を喜ばせるための一大エンターテイメントだったのです。
なんとなく難しそうなので、ということで敬遠されている方も多いのかもしれませんが、そもそもは庶民の娯楽だったもの。
一度観てみれば、華やかで心ときめく驚きと感動の世界が広がっているのです。
しかも歌舞伎は、単に400年もの間、ただただ伝統を受け継いできただけではありません。
時代に呼応して常に変化し、発展・進化してきているのです。
This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(4) 演目の分類と一覧について
前回は歌舞伎の演目をざっと整理してみましたので、ここからは具体的な演目の内容について触れてみましょう。
今回は、歌舞伎舞踊の中から『積恋雪関扉』です。
『積恋雪関扉』通称『関の扉』は、常磐津節及びそれに合せて演じられる歌舞伎舞踊の演目のひとつで、『重重人重小町桜』という長い作品の大詰の舞踊部分だけが残った作品です。
舞台は、小町桜が咲き誇る雪の逢坂の関。
しかも樹齢三百年にあまる桜の花は薄墨色。
関近くに住む良峰宗貞のもとに恋人の小町姫が訪ねてきて、関守の関兵衛の素性を怪しむのが前半です。
後半は、関兵衛が天下を狙う大悪人の大伴黒主、遊女墨染が小町桜の精、というそれぞれの本性をあらわして争います。
四人が繰り広げるのは、王朝の政争を背景にした幻想的な恋と謀反の争い。
妖しくも美しい常磐津舞踊劇の大曲となります。
多くの場合、小町姫と墨染の2役は1人の女方が演じます。
『積恋雪関扉』
雪景色の中に、今が盛りと狂い咲く満開の桜の大樹。
ここは逢阪の関所。庭には先帝が愛した『小町桜』が咲き誇っています。
関に暮らすのは関守・関兵衛と、先帝の寵臣・良峯少将宗貞。
不遇の最後を遂げた先帝の菩提を弔うために、先帝愛樹の桜が咲く関へ蟄居しているのです。
その逢阪の関へ一人の女が訪れました。
旅慣れているとも思えない美しい姫君姿、しかも通行手形を持っていません。
関守の関兵衛が咎めると、母親の菩提を弔うためにこの先の寺を訪ねたいと語ります。
髪も尼のようにはせず、若い女のみずみずしい姿のまま仏事とは・・・関を守る身としては、怪しいものは通せません。さまざまに仏問答を仕掛けますが、そのことごとくに答える女。
関兵衛はなおも訝りますが、女の才知に感動した宗貞は、関を通してやるよう言葉をかけます。
姿を現したその人は、なんと宗貞が都へ打ち捨ててきた恋人・小野小町姫。
失脚して姿を消した宗貞を忘れかね、王子の横恋慕に肯くことが出来ずに逃げてきたのです。
偶然の再会を果たす二人。
愛しい恋人に再会でき、狂喜する小町姫。しかし、蟄居の身の宗貞は喜びの中にも複雑な心境を隠せません。
関兵衛が二人に馴れ初めを聞けば、あまりに仲睦まじく美しい二人の仲ではありませんか。
関兵衛は若い恋人の仲をどうにか取り持とうとします。
その時、関兵衛が頭を下げた拍子に懐から何かを落としました。
慌ててそれを隠す関兵衛。
しかし宗貞と小町姫はその品が「勘合の印」と「割符」であったことを見咎めていました。
これこそ、先帝が陥れられた謀反の鍵を握る品だったのです。
その場を繕い、関兵衛は二人に気を利かせてひとり奥へ下がっていきます。
関兵衛への不審を募らせる宗貞と小町姫。
と、その場に一匹の鷹が何かを掴んで飛んできました。
血染めの文字が書き付けられた片袖―それは間違いなく、宗貞の弟・安貞のもの。
その言葉から、宗貞は弟・安貞が自分の身代わりになって死んだことを知ります。
そしてあの鷹が、敵にとっては手柄のこの片袖を、この場所へ―関兵衛が住むこの関へ―運んできたことが意味するものとは・・・
関兵衛への不審が大きく膨らんだ宗貞は、弟形見の片袖を座敷の琴の中に隠します。
そして小町姫には、「関を包囲し追っ手を差し向けるように」との伝言を託し、急ぎ都へ向かわせたのです。
思案に耽る宗貞のもとへ、ほろ酔い加減の関兵衛がふらふらと現れました。
宗貞は関兵衛の酔いを幸い、懐の証拠の品を探ろうとしますが、失敗。
悔しい表情のまま引き下がっていきます。
一人になった関兵衛は、庭にどっかと腰を下ろし、大杯で酒を飲もうとします。
と、酒の表面に天の星の並びが映りこみ、それを見た関兵衛の顔色が一変。
陰陽道で「天下を取る」暗示を示す配置が示されているではないか!
―――陽気なお人よしの関守と身を偽っていた関兵衛、その正体は天下を狙う謀反人・大伴黒主その人だったのです。
天が、ついに自分の味方となった。
ついに訪れた千載一遇の時を逃がすまい。天下調伏祈願の護摩木を切ろうと、石で大鉞を研ぎだします。
切れ味を確かめるため、座敷へ乗り込み琴をばっさりと切り捨てたところ、中からは安貞形見の片袖が。
それを見た関兵衛は安貞の死を知り、すべてが思い通りに運ぶ幸運にほくそえみます。
血染めの片袖を懐にねじ込んで庭に降り立つと、なんと「勘合の印」と「割符」が突然懐から飛び出し、墨染桜の梢に飛び去るではありませんか!
突然のことに驚き怒った関兵衛は、妖しい墨染桜を切ろうと大鉞を振り上げます。
その瞬間、墨染桜から発せられた妖気に捕らえられた関兵衛は、気を失ってしまうのです。
小町桜の中にぼんやりと人影が浮かび上がり、美しい小町桜の精が現れました。
この小町桜の精、安貞恋しさのあまり人の姿を借りて傾城墨染と名乗り、安貞と思いを交わした恋人同士であったのです。安貞の危難を感知して不安が募り、安貞縁の品を懐に忍ばせた関兵衛の下へと出現したのでした。
気が付いた関兵衛は突然現れた傾城姿の女に戸惑い、素性を問いただすと「撞木町(=色町)から来た」と告げ、偽りの色仕掛けで関兵衛に迫ります。
関兵衛は興に乗り、墨染の手引きで廓遊びの一部始終をなぞったりなどして戯れます。
そのうち、油断した関兵衛の懐から片袖を奪い取った墨染は、血染めの文字から恋人の命が奪われたことを確信し涙にくれます。
その様子、ただの傾城ではないと怪しむ関兵衛に問い詰められた墨染は本性を顕します。
髪を乱し、人ならぬ身の迫力で「本性を明かせ」と迫られた関兵衛は、ついに自らが天下を狙う謀反人・大伴黒主であると宣言し、その姿までもが一変します。
恋人を殺し、国を滅ぼさんとする大悪人・大伴黒主と小町桜の精は、激しい大立ち周りをして戦うのでした。