歌舞伎は世界に誇る、日本の伝統芸能です。
しかし、元々400年前に登場したときには、大衆を喜ばせるための一大エンターテイメントだったのです。
なんとなく難しそうなので、ということで敬遠されている方も多いのかもしれませんが、そもそもは庶民の娯楽だったもの。
一度観てみれば、華やかで心ときめく驚きと感動の世界が広がっているのです。
しかも歌舞伎は、単に400年もの間、ただただ伝統を受け継いできただけではありません。
時代に呼応して常に変化し、発展・進化してきているのです。
This is ” KABUKI ” ( ノ゚Д゚) もっと歌舞伎を楽しもう!(4) 演目の分類と一覧について
前回は歌舞伎の演目をざっと整理してみましたので、ここからは具体的な演目の内容について触れてみましょう。
今回は、舞踊の中から『藤娘』です。
『藤娘』は、大津絵の『かつぎ娘』に題をとった長唄による歌舞伎舞踊の演目です。
もとは『歌えす歌えす余波大津絵』という5変化舞踊の一部で、大津絵に描かれたモチーフの娘が絵から出て来て踊るという趣向の五変化舞踊のひとつでしたが、六代目尾上菊五郎が娘姿で踊る藤の精という内容に変えて演出を一新して以来その型が一般的になり、今日でも人気の歌舞伎舞踊の演目の一つであるばかりか、日本舞踊でも必須の演目の一つとなっています。
藤の花の精が娘の姿で現れ、女心を踊る作品で、とりたててストーリー展開はありませんが、衣裳を何度か着替えて、娘の愛らしい姿を見せていきます。
笠を使った振りでは、「男ごころの憎いのは他の女子に……」と男性の浮気性をなじる詞章で、すねてみせるなど、切ない反面可愛らしい恋心が表現されます。
次の「藤音頭」は見どころの1つで、お酒を少し呑まされて酔い、恋しい男性を思う踊りです。
鉦という金属音のする打楽器が醸し出す、美しくリズミカルな曲を背景に、男性が帰るというのを引き留めたりする女心満点な振りがついています。
両肌脱ぎをした格好になると、テンポのよい曲調になり、明るく楽しく踊ります。
「まだ寝が足らぬ……藤に巻かれて寝とうござる」という詞章で、寝そべったりする仕草が可愛らしい部分です。
やがて鐘の音が聞こえてくると、娘は藤の枝を担ぎ夕焼け空に飛ぶ雁を見上げるのです。
『藤娘』
若むらさきに とかえりの 花をあらわす 松の藤浪
人目せき笠 塗笠しゃんと 振かかげたる 一枝は
紫深き 水道の水に 染めて うれしきゆかりの色に
いとしと書いて藤の花 エエ しょんがいな
裾もほらほら しどけなく
鏡山 人のしがより この身のしがを
かへりみるめの 汐なき海に 娘すがたの はづかしや
男ごころの憎いのは ほかのおなごに 神かけて
あはづと三井(みい)のかねごとも 堅い誓いの石山に
身はうつせみの から埼や まつ夜をよそに 比良の雪
とけて 逢瀬の あた妬ましい ようものせたにゃ わしゃのせられて
文も堅田の かただより こころ矢橋の かこちごと
松を植よなら 有馬の里へ植えさんせ
いつまでも 変わらぬちぎり かいどりづまで よれつ もつれつ まだ寝がたらぬ
宵寝まくらの まだ寝が足らぬ 藤にまかれて 寝とござる
アア何とせうか どせうかいな
わしが小まくら お手まくら
空もかすみの夕照りに 名残惜しみて 帰る雁金
『潮来出島』
潮来出島の真菰の中に
菖蒲咲くとはしおらしい サアサよいやサア
宇治の柴船 早瀬を渡る
わたしゃ君ゆえ のぼり船 サアサよいやサア
花はいろく五色に咲けど
主に見かえる花はない サアサよいやさ
花を一もと わすれて来たが 後で咲くや開くやら
サアサよいやサー よいやさ しなもなく
花にうかれて ひと踊り
『藤音頭』
藤の花房色よく長く
可愛いがろとて酒買うて 飲ませたら
うちの男松に からんでしめて
てもさても 十返りという名のにくや
かへるという忌み言葉
はなものいわぬ ためしでも
しらぬそぶりは ならのきょう
松にすがるも すきずき
松をまとうも すきずき
好いて好かれて
はなれぬ仲は ときわぎの たち帰えらで
きみとわれとか おゝ嬉し おゝうれし