歌舞伎は世界に誇る、日本の伝統芸能です。
しかし、元々400年前に登場したときには、大衆を喜ばせるための一大エンターテイメントだったのです。
なんとなく難しそうなので、ということで敬遠されている方も多いのかもしれませんが、そもそもは庶民の娯楽だったもの。
一度観てみれば、華やかで心ときめく驚きと感動の世界が広がっているのです。
しかも歌舞伎は、単に400年もの間、ただただ伝統を受け継いできただけではありません。
時代に呼応して常に変化し、発展・進化してきているのです。
「能」と「狂言」、「歌舞伎」は何がどう違う?
ここでは、そんな歌舞伎に興味を持って頂こうと、演目を中心に整理を進めていきたいと思います。
で、そもそも大衆娯楽の歌舞伎ですが、江戸時代から発展してきただけに、当時の共通認識や長年蓄積された暗黙の了解事項、決まりごとがあることも確かです。
こうしたことが難しい、という先入観に繋がっているのだと思われるのですが、こうした決まりごとは知識として知ってしまえば何ら問題のあることではありません。
ということで、今回はそんな歌舞伎のお約束ごとから、始めてみましょう。
【後見】
歌舞伎には、演目を演じる役者以外にも、舞台上で進行を手伝う「後見」という人達がいます。
その中でも全身黒尽くめの「黒衣」(くろご)というのは、お馴染みではないでしょうか。
歌舞伎では黒は見えないものという決まりになっているため、黒衣は舞台上にはいない存在として扱われます。
こうした黒衣ですが、顔を覆う頭巾に手甲、脚絆、足袋と手先以外は肌を露出させない全身黒尽くめという徹底振りで、役者の後ろに控えてお手伝いを行っているのです。
後見や黒衣という言葉も、こうした歌舞伎からの出典であることがよくわかりますよね。
ちなみに後見には、黒衣とは異なり、素顔を見せ紋付袴、古風な作品だと鬘を付けて化粧をし裃(かみしも)を着けた「裃後見」というものもいます。
【効果音】
次はご存知、効果音です。
さまざまな場面の切り替えなどでバタッ、バタッ、バッタリ、と粋な音を響かせているのは、ツケ板にツケ木を打ちつけて、人物の動作や見得を切るときの「つけ打ち」という効果音ですね。
あと、開演前にチョーンと冴えた音色を鳴らし、一幕が終わって休憩を挟まずに次の場に転換する場合にはチョンチョンと鳴らし、幕切れにはチョンチョンチョンチョンと細かく音を刻む「柝」(き)。
こうした効果音が、演目を盛り上げ、幕の転換にメリハリを付ける役割として功を奏しているのです。
【時代背景】
歌舞伎では演目を作る際に、主筋となる物語の時代や場所、人物を設定します。
こうした物語の時代背景は、「平家物語」「太平記」「太閤記といった歴史物語から選ばれていることが多いです。
というもの、江戸時代にはこうした物語の内容は誰もが知っていたため、その世界観にすんなり入ることができたためです。
近代に作られた演目も多いですが、伝統的な演目となると、やはりこうした古典文学の知識を背景に抱えておくと、歌舞伎ももっと楽しめるのではないでしょうか。
【役柄】
歌舞伎の登場人物の性別、年齢、性格をもとに設けた役(演技)の分類、類型といった役柄に分類されます。
大分類すると立役(たちやく)と女形(方)(おんながた)と道化役の3つに分けられているのですが、立役は男役の総称か、男役の中でも誠実な思慮深い主役の2つの意味があります。
立役をさらに中分類すると善人と敵役があり、善人を小分類すると荒事師、和事師、実事師、さばき役、辛抱立役、和実師、若衆、男の老役である親仁方、敵役を小分類すると、実悪(誠実な人と見せかけて主家横領を企む大悪人。堂々として貫禄があり、残酷。立敵、国崩しともいう)、皇位をねらう公家悪、実悪の家来である平敵・端敵、お家横領を企む叔父敵、世話物の手代敵、好意を寄せる女を裏切る冷酷な二枚目の悪人である色悪(いろあく)、滑稽な悪人の半道敵(はんどうがたき)があります。
女方を小分類すると傾城(遊女)、武道に優れた女武道、世話女房、娘方、男のために悪事をする粋であだっぽい年増の悪婆、年増・老女の花車方(かしゃがた)があるのですが、女方の中でも一座の最高位を立女方(たておやま)といいます。
次回には、もう少しこうした役柄の見分け方について、触れてみることにします。