厚黒学を理解してみる!したたかな駆け引き、振る舞い、驚くほどの現実主義・個人主義の秘密!

『厚黒学』という、清の末期に書かれた英雄になるための研究書があります。
その原則は「面の皮は城壁より厚く、腹は石炭よりも黒く生きよ」。
これは、儒教道徳の裏にかくされた中国四千年の原理であり、古来の英雄豪傑の行動を分析して編み出した処世術であり、現代も中国で読み継がれる「成功哲学」なのです。
これを理解すると、中国人のしたたかな駆け引き、振る舞い、驚くほどの現実主義・個人主義の秘密が見えてくる、ということで今回は『厚黒学』について整理してみます。

清の末期、四川省にあらわれた鬼才・李宗吾は、伝統的な儒教価値観を”中国に栄光とともに大いなる停滞と閉塞をもたらした元凶”と断じ、完膚なきまでに論破しました。
その思想は『厚黒学』という中に集約されるのですが、当時清を侵食していた欧米列強と日本の前になすすべのない中国人を救うという名目から、発表されると同時に大反響と空前の論争をを巻き起こし、近代最大の奇書とまでいわれています。
『厚黒学』は「厚黒学」「厚黒経」「厚黒伝習録」の三部で構成されており、乱世を生き残るための処世術が随所に織り込まれていると同時に、中国人の世界認識・歴史観・人間観を知る上でも参考となる資料です。
そもそもの『厚黒学』の原典は『史記』や『三国志』、『老子』『韓非子』『孫子』『戦国策』にあり、そこに記されたエピソードを引用しながら、厚黒学の奥義を極めるためにはどうすればよいかを事例を交えて展開しています。

当時李宗吾は、英雄豪傑に憧れて四書五経や諸子百家や二十四史を熟読したものの、結果得るところがなく、そうした中である時に突然『厚黒学』の着想を閃いたそうです。
厚黒の厚は厚かましさの厚であり、厚黒の黒は腹黒さの黒。
その秘訣は「厚黒を裡となし、仁義を表と為す」と述べられているように、孔子や孟子の徳の道を持った上で、曹操や劉備、諸葛亮、項羽、劉邦といった古来の英雄豪傑の持つ面の皮の厚さと心が腹黒い術が必要だと説いているのが『厚黒学』なのです。

『厚黒学』を表面的に読めば、多くの歴史上の人物の行動例を示して、「厚黒であれば成功し、不厚不黒の者は失敗する」と唱えているだけのものです。
しかし、厚黒の作用には段階があり、
・厚きこと城壁の如く、黒きこと石炭のごとし
・厚くてしかも硬く、黒くてしかも光る
・厚くてしかも形なく、黒くてしかも色なし
というプロセスを経ることで、厚かましく腹黒い生き様が極められるということのようです。

近代最大の奇書といわれるだけのことはあるのですが、その背景は当時欧米列強や日本に追い詰められて行き場を見失っていた中国を救うためにどうするかという切実な問題意識があったがために生まれてもの。

それゆえに、
・人間とはなにか。
・人の世はどのように運行されてゆくか。
・人生に処してゆくために、どう考えを練らなければならぬのか。
といったことを会得するため、『厚黒学』は人の意表を衝く論法を用いて、読者が思い至るよう巧みな仕組みが施されているともいえるでしょう。

破倫の邪説か?究極の人間学か?
読めばいろいろ物議な醸し出されることは必定で、当時の中国人にも賛否両論があり「世直しの思想である」と称える人と「危害を与える学問」として批判する両派があったようですが、それ程に特異性が強い奇書であることは間違いありません。
しかし李宗吾は『厚黒学』の中で自修能力が大事だと説いており、また
「わたしは、ひとつのルールを定めている。
 厚黒を用いて一個の私利をはかるのは、最も卑劣な行為であり、
 厚黒を用いて衆人の公利をはかるのは、至高無上の道徳である」
という件に触れるかぎりは、数多くの原典を背景を念頭に入れながら取り組む書物であることは確かなようです。

トライしてみるか否かは、あなた次第です。

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